中高年のハマる韓流
「人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021」藤脇邦夫著
ネトフリやアマプラなど配信で海外ドラマが気軽に見られるようになり、中高年の間で韓流ドラマが「冬ソナ」以来の爆発的な人気だ。
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新書判だが460ページを超えるズッシリ感。著者は60代後半だそうだが、その人が「人生を変えた」というのだから韓流ドラマの威力がしのばれるだろう。「冬ソナ」こと「冬のソナタ」が日本で放映されたのは「北の国から」が終わった直後だったという。次第に日本のドラマが若者志向を強めるにつれ、中高年層は作りのていねいな韓流ドラマに引かれていく。
映画でも韓国モノは仕掛けの大きな政治アクションが話題になった。著者は元業界誌記者で「定年後の韓国ドラマ」で中高年の韓流ブームの先鞭をつけただけに、物語の中身ばかりでなくコンテンツ業界のビジネス的な仕掛けも紹介してくれる。
実は日本以上に少子化に悩む韓国では、ドラマといえども韓国社会の実情を反映したものは少ない。大家族をベースにした人情ドラマなども実際は幻想に近く、それゆえソウルを舞台にしたドラマもほとんど無国籍の作りになるため、逆に外国人にもわかりやすくなるわけだ。
ネット配信時代のドラマのベスト3は「愛の不時着」「梨泰院クラス」「賢い医師生活」。どれも日本で大人気のドラマばかり。
Kポップアイドルのドラマ進出も新しい傾向だという。
(光文社 1320円)
「『愛の不時着』論」本橋哲也著
日本でも大人気の韓流ドラマ「愛の不時着」。誤って北朝鮮領内にパラシュート降下してしまった韓国のお嬢サマが北朝鮮軍の若い兵士と恋をしてしまう。普通ではあり得そうにないシチュエーションを、まるでコメディー版の「ロミオとジュリエット」のように描いてたちまち日本でも大人気になった。それも中高年層で絶大な人気なのだ。
英文学者で現代哲学にも通じた60代半ばの著者もそのひとり。「セリフとモチーフから読み解く韓流ドラマ」が副題だが、1本のドラマで厚い一冊を書き上げるのだから相当なハマりよう。なにしろ「史上最高の韓流ドラマ」と断言するのだから。しかしその根底には同じ民族が分断国家で隔てられていることの悲しみと共感があるのだという。
全16章にコラムも16本とギッシリ詰まった中身に著者のハマり具合がうかがわれる。
(ナカニシヤ出版 1980円)
「異文化コミュニケーション学」鳥飼玖美子著
日英同時通訳の草分け的存在としてテレビでもおなじみだった著者。その後、大学の先生になって「異文化コミュニケーション」を教え、いまは名誉教授ながらも現役の教育者として活躍中だそうだ。本書はその専門の入門書として書かれた新書だが、単に日英を比較するだけでなく「文化の三角測量法」という学説に沿って日・英・韓を比べる。韓流ドラマは英語の歌やセリフがよく出てくることもあって、3つの文化比較にはもってこいなのだろう。
取り上げるドラマは超富裕層と庶民の格差を描く「梨泰院クラス」や韓国系イタリア人がマフィアの弁護士になるという「ヴィンチェンツォ」、またご存じ「愛の不時着」などなど。具体的な場面やセリフを取り上げての解説が盛りだくさんだが、ここまで知っているとは、相当、韓流ドラマにハマったに違いないと思わせるのが面白い。
(岩波書店 924円)