ニッポン自動車企業は立ち上がれるか
「ロシアトヨタ戦記」西谷公明著
かつて高度成長の柱だった日本の自動車産業が、EV化の大波で後れを取っている。大丈夫か、ニッポン!?
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かつて長銀(日本長期信用銀行)系のシンクタンクから在ウクライナ日本大使館に専門調査員として出向した著者。しかし帰任直前に親会社は経営破綻。それを聞きつけてヘッドハントの誘いがかかる。仕事はソ連崩壊後のトヨタ市場の開拓。そこに始まった新規市場の苦労話が本書だ。
しかし単なる懐旧談や自慢ではない。ケチと慎重で有名な社風の老舗自動車企業に途中入社した新参者が、まったく縁のない取引先との巨大ビジネスをどう切り開いていったか、その詳細なケーススタディーになっているからだ。やぼったくて内弁慶だが人情味もある生産部門主体の豊田市本社とスマートで国際的な東京本社の違い、要人とのパイプづくりだけでなく関係諸機関との細かな連絡を怠ってはいけない海外取引の現場など、グローバル化とIT化とEV化に翻弄される現代でも通用する教訓とエピソードが次々に出てくる。
さらに、大柄で物静かだが闘争心の塊。押しが強くて即断即決。部下たちには「皆のカリスマ」として君臨しながら「経営者としての大局観」を折々に示す奥田碩会長(当時)の存在がなにより印象的。要は企業の成長も生き残りも、手抜かりない気働きとトップの器量しだいということだ。
(中央公論新社 2420円)
「初代ALTOと鈴木修の経営」牧野茂雄著
自動車業界で最古参のカリスマ経営者といえば鈴木修元スズキ会長。創業家の娘婿として入社し、社長に就任して最初に売り出したのが軽自動車の歴史を変えたといわれる初代アルト。日本独自の「軽」は当初は消費者にもバカにされたが、初代アルトは小柄だがシャレた赤のボディーと機敏な動きで大人気となり、月産5000台という破格の設定をも軽く上回った。
本書は元会長へのインタビューをはじめ、当時の開発担当者や販売会社への取材などでスズキの「『ものづくり』の原点」(副題)を浮き上がらせる。
ハンガリーやインドなど世界の大手が相手にしなかった自動車途上国への進出のしかたなど、国際化のノウハウも披露される。生き残る企業は総合力、それを引き出すのがカリスマ的なリーダーという古くて新しい教訓が読み取れる。
(三栄 2200円)
「世界で勝てない日本企業 壊れた同盟」カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス著 広野和美、小金輝彦訳
一度見たら忘れられないあの目が、表紙いっぱいに拡大されてこっちをにらみつけている。今の日本では「ゴーン脱獄囚」ということになる、あの元日産会長が、自身の手掛けた仏ルノーと日産、そして三菱の自動車企業3社の連合(アライアンス)を真っ向から批判する。
著者によればアライアンスは上下関係もなく、共同して規模の経済を追求できる点で「非常に合理的で理性的な提携」。しかしゴーンが離れたことで3社を結びつける要がはずれ、ルノーも日産も低迷している。
長く鎖国してきた島国ニッポンの欠点を知悉する外国人だけに当たっている点も多々ある一方、長期政権で容易に腐敗した自身の身の上については自己弁護も目立つのは確かだ。
(幻冬舎 2640円)