「仕事と人生に効く教養としての紅茶」藤枝理子氏

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 今年の新語・流行語大賞の候補にもなった「ヌン活」(アフタヌーンティー活動)や若者のアルコール離れの加速で、昨今、注目されている紅茶。紅茶は女性が飲むものというイメージが強いが、さにあらず。

「アート=芸術とは美術館で眺めるものと思いがちですが、生活の中で見いだすものです。その意味でも、紅茶は総合アートなんです。アフタヌーンティーは陶磁器や空間を彩る絵画や音楽などを暮らしの中で楽しむことができるアートであり、紅茶は、その背景に世界とつながるルーツや文化、政治・経済などグローバルな要因がかかわっている総合アートといえるのです。アートとして楽しむのは男性が得意ですよ」

 本書は、紅茶の作法のみならず、お茶の歴史や文化・習慣をひもとき、日常生活やビジネスシーンにおけるお茶の活用のしかたまで幅広く伝える教養書である。

 お茶は、日本でも「日常茶飯事」という言葉があるほど生活に浸透しているものだが、身近でありながら意外に知られていないことも多い。

「紅茶や緑茶、ウーロン茶は全て同じチャの木“カメリア・シネンシス”から採取されたもので、発酵の度合いで分かれています。全発酵させたものが紅茶、加熱によって発酵を止めたものが緑茶、その間にある少し発酵した半発酵茶がウーロン茶です。また、同じ木ですが栽培品種は中国種とアッサム種があり、前者はお茶の抽出液の色が薄く緑茶向き、後者は色が濃く紅茶向きです」

 また、約5000年前に中国から始まったお茶のルーツをたどると、世界を動かす企業の発祥や当時の経営手法を知ることができ興味深い。

「17世紀、ロンドンでは、最先端のコーヒー、茶、ショコラを飲むことができるコーヒーハウスが多くあり、政治家、ジャーナリスト、商人などの男性だけが集まる社交の場でした。さまざまな情報交換が行われ、ギャラウェイ・コーヒーハウスは後のロンドン証券取引所、ロイズ・コーヒーハウスは世界有数の保険会社ロイズとなりました。また、トワイニングの初代はコーヒーハウスで初めて茶葉の量り売り販売を始め、新たに、立ち入り禁止だった女性にも茶葉を売ることができる茶専門店をもオープンしました」

 ちなみに、アフタヌーンティーは、19世紀に公爵夫人が、国会議員である夫のゲストの夫人方を午後のお茶会でもてなすようになったことが始まりだ。

「紅茶は、産地銘柄、特に3大銘茶(インドのダージリン、スリランカのウバ、中国のキーマン)の個性を覚えておくとビジネスシーンにも活用しやすいです。朝に飲む一杯や仕事に集中したいときはウバがいいです。気分転換にはアールグレイや潰したカルダモンなどを入れたスパイスの紅茶がおすすめです。現在、イギリスでも90%以上の人が茶葉ではなく、ティーバッグを使って紅茶を飲んでいるので、もっと日本でも気軽に紅茶を味わってほしいですね」

 本書では、アフタヌーンティーでのマナーや各国のお茶文化も紹介され、紅茶専門店も掲載されているので、今まで紅茶に縁がなかった人にも親しみやすい。

「年末年始、お酒の代わりに、スモークサーモンやナッツをつまみに、スコッチウイスキーや正露丸の香りがする紅茶、ラプサンスーチョンを試してみてはいかがでしょう」

(PHP研究所 2420円)

▽藤枝理子(ふじえだ・りこ) 会社員時代、紅茶の魅力にとりつかれ、退職しイギリス留学をする。ヨーロッパ各国の生活芸術を研究し、帰国後、自宅でサロン形式の紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。著書に「もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?」など。

【連載】著者インタビュー

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