「鬼と日本人の歴史」小山聡子著
「鬼と日本人の歴史」小山聡子著
古代から現代まで続く鬼と日本人の関係の変遷をたどり、鬼とは何かを考察した通史。
中国では鬼は死者の霊とされており、7世紀には中国からそうした思想が日本に入ってきた。一方で、日本の鬼観念は、餓鬼や夜叉、羅刹など仏教の鬼にも影響を受けている。憤怒の相や裸にフンドシ、赤や青の肌、手に持つ宝棒などの鬼の特徴はもとをたどると仏教の鬼の姿なのだそうだ。
また、海からの漂着者を鬼と見なしたり、形態異常で生まれた赤子を鬼子と呼んだり、嫉妬に苦しむ女性を鬼として表現したりしてきた。
近世でもそうした風潮は変わらず、戦時下で桃太郎がプロパガンダに用いられるなど、鬼が侵略や差別、迫害の正当化に用いられてきた事実にも注目。
鬼を手掛かりに日本人の精神世界にも迫る力作。 (筑摩書房 902円)