「ひどい民話を語る会」京極夏彦・多田克己・村上健司・黒史郎著
昔話の研究は、柳田国男の時代から続いているが、その柳田国男もボツにした話も多いという。それはウケ狙いで作ったようなものは採用しないということらしい。「柳田国男未採択昔話聚稿」という本まであるというから、この世界も奥が深い。
民話にはそういう「ひどい話」が多いというのだが、それをあえて仲間で話し合うというのが本書だ。「ひどい民話」には艶笑譚も多いらしいのだが、あまりにひどすぎるのでここでは対象外にする、と冒頭で宣言されている。しかしどうしても外せなかったのが、ウンコの話で、本書にはこの手の話が少なくない。帯に「下品な話が苦手な方はご遠慮ください」と惹句が付いているのはそのためだろう。だからここでも、ウンコの話は引用しない。それらを除いても十分に面白いのだ。
たとえば、「桃太郎」には鬼退治しないバージョンがいくつかあるというくだり。桃太郎が山に行って巨大な松の根っこを持ってきて家に置いたら、家がメキメキと倒れてしまい、爺さんが鍋の中に首を突っ込み、婆さんは飯桶に首を突っ込んで死んじゃうバージョン。爺婆が死んで話はそこでおしまい、という驚くべき話だが、これを多田克己が紹介すると、京極夏彦が「あるある。それは確か山陰地方で語られていた桃太郎ですよ」と言うのだ。知っているんだ。
こういうヘンな、ひどい民話が次々に飛び出してくるから油断できない。
(KADOKAWA 1650円)