スクリーンに映らないドラマもある 制作秘話が満載 映画の本特集

公開日: 更新日:

「社長たちの映画史」中川右介著

 ドラマはスクリーンの中だけにあるのではない。その裏側や周辺にも、映画に関わった人たちのドラマがある。そういう切り捨てられ、隠された思惑や事情がスクリーンを輝かせるのだ。



「社長たちの映画史」中川右介著

 映画の製作・上映の最終決裁者は映画会社の社長で、1970年ごろまでは、大映だったらタイトルの次に「製作総指揮・永田雅一」とクレジットが出たものだ。社会でも映画会社の社長の名と顔は知られていた。

 松竹映画の総帥だった城戸四郎は、戦後、公職追放が解除されて副社長に昇格した。いい映画とは「明るく、人生を希望的に描いているもの」だと考え、阪東妻三郎や市川右太衛門らの時代劇で当てると、新人監督と新人俳優を起用して45分前後の映画を作り、2本立て興行を行った。大ヒットしたラジオドラマ「君の名は」を佐田啓二・岸恵子主演で映画化すると歴史的大ヒットとなり、配給収入は第3部までで9億円を超えた。

 映画が「娯楽の王様」だった時代に、強烈な個性で映画を製作した社長たちを描く。

(日本実業出版社 2420円)


「映画の木洩れ日」川本三郎著

「映画の木洩れ日」川本三郎著

「ティファニーで朝食を」でオードリー・ヘプバーンが演じるホリーは、実は高級コールガールである。

 原作者のカポーティはマリリン・モンローに断られ、オードリーと交渉した。彼女の夫、メル・ファーラーは娼婦役に反対したが、プロデューサーのマーティン・ジュロウが「我々が作りたいのは、夢見る人の映画なんです」と説得した。

 川本は甘ったるい映画だと思っていたが、サム・ワッソン著「オードリー・ヘプバーンとティファニーで朝食を」(中央公論新社)を読んで、この映画が新しい女性のイメージをつくり出した先駆的な映画として高く評価されていることを知った。男社会で生き生きと自由に見えるホリーを女性が支持したからだ。

 ほかに、反戦にこだわった広島出身の大林宣彦の「この空の花」など、興味深いエピソードが満載。

(キネマ旬報社 3630円)


「映画を追え」山根貞男著

「映画を追え」山根貞男著

 神戸市長田区にある神戸映画資料館は、映画のフィルム、書籍、ポスターなどのほか、映写機などの機材も収蔵している。

 安井喜雄館長は学生時代から仲間と日本映画の上映会を催していたが、テレビ番組の制作ディレクターになってからフィルムなどの収集を始めた。無声映画の16ミリから集め始め、最初に入手したのは阪東妻三郎の「江戸怪賊伝 影法師」(1925年 東亜マキノ作品)だった。

 外国映画は映画評論家の佐藤重臣から買ったが、日本映画は75年ごろ、無声映画の元弁士の遺族からまとめて引き取った。当時、無声映画の上映会で商売になったのは、阪妻、嵐寛寿郎、大河内傳次郎の出演作品だった。

 映画評論家の著者が、フィルムアーカイブや個人のフィルムコレクターを訪ねて聞いた映画の話。

(草思社 2640円)


「ドキュメンタリーの舞台裏」大島新著

「ドキュメンタリーの舞台裏」大島新著

 2016年の初夏、映画監督の著者は、民進党(当時)の衆院議員小川淳也を囲む飲み会で、小川のドキュメンタリー映画を作ろうと思いついた。13年近い付き合いの小川は、大島にとって「なりたくても、なれない自分」だった。

 小川が「希望の党」から出馬することになり、選挙カーの中で「大島さん、どう思われますか? 今回の判断、決断は……無所属でもよかったと思う?」と尋ねた。高橋カメラマンはカメラが回っていると大島にサインを送る。大島が「思いますね」と答えると、小川が苦悩を吐露しはじめた。「ドキュメンタリーの神が降りた」瞬間だった。後部座席にいた高橋は、サイドミラーに映る小川の表情をアップでとらえた。

 大島新が映画の製作過程を語るドキュメンタリー。

(文藝春秋 1650円)


「日活ロマンポルノ 性の美学と政治学」志村三代子、ヨハン・ノルドストロム、鳩飼未緒編

「日活ロマンポルノ性の美学と政治学」志村三代子、ヨハン・ノルドストロム、鳩飼未緒編

 日活ロマンポルノを彩った女優には、片桐夕子、東てる美などがいるが、SMをテーマにした作品に出ていたのが谷ナオミだ。

 当時、1カ月に6本という量産体制をとっていた日活からさまざまな脚本を提示されたが、谷は「SMだったらほかの人にはなかなかできない」と、自分のロマンポルノ初主演作の原作に団鬼六のSM小説「花と蛇」を指定し、SMの女王となる。イラストレーターのみうらじゅんは、「ドン底に落とされてもまだ高貴な香を漂わせている女優のスゴさ」と称賛する。「高貴」とは、谷がSMで演じた数々のヒロインを規定するキーワードなのだ。(「SMの女王」谷ナオミ論)

 ほかに、キルステン・ケーサの「日活ロマンポルノ裁判(1972-1980年)」や、女優、白川和子の体験談など、さまざまな視点からロマンポルノを語る。

(水声社 3850円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…