「職場の発達障害」岩波明著/PHP新書

公開日: 更新日:

「職場の発達障害」岩波明著/PHP新書

 評者は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)の部下とどう接していいかがわからずに悩んでいる中間管理職から相談を受けることがときどきある。また人事担当者からも発達障害を抱える職員の人事で苦労しているという話を聞く。そういう人たちのよき相談相手となってくれるのが本書だ。

 岩波明氏(精神科医)は、個々の企業の文化を踏まえた上で発達障害がある人の受け入れ体制を構築することが必要であると説く。

<会社の「空気」にはいろいろなタイプがあって、上司であろうと、経営者であろうと、構わず議論を吹っかけてやっつけても構わないようなところや、そういった熱気が求められている部署があるのは確かだ。イーロン・マスクが起業した当時のPayPalは、常に深夜まで議論が絶えない「戦争状態」のような職場だったらしい。/けれども日本の大部分の会社では、陰でいじめや嫌がらせが横行していても、議論も争いも表立って起きることは少ないし、上席で立場のある人物は論破されることを好まない。会社の中の事柄は、組織を牛耳っている人物の筋書き通りに、静かに進行していくのが通例である。たとえその方向が会社に損害をもたらす可能性が大きくとも、逆らってはいけないのである>

 岩波氏は、とりあえず上司には逆らわず、就業規則のみならず組織の掟にも従わなくてはならないという企業文化を前提に、ADHD、ASDの人々に対する治療法を具体例とともに説得力のある形で記す。その上で企業戦略として発達障害者を包摂していくことの合理性を説く。

<一般の社会、あるいは経営者側は彼らをうまく扱えないために邪魔な者として排除しようとするかもしれない。しかし、硬直した現状を打破する新しいブレークスルーを生み出すためには、本来はそういった「非常識な感性」を適切にマネージし、活用することが必要なのである>

 特にイノベーションにおいては、「非常識な感性」が重要になる。そのとき発達障害を抱える社員を抱える企業に優位性が生じる場合がある。中間管理職と人事担当者にとって必読の書だ。 (2023年10月12日脱稿)

 ★★★(選者・佐藤優)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党が消せない“黒歴史”…党員がコメ農家の敵「ジャンボタニシ」拡散、農水省と自治体に一喝された過去

  2. 2

    極めて由々しき事案に心が痛い…メーカーとの契約にも“アスリートファースト”必要です

  3. 3

    遠野なぎこさんを追い詰めたSNSと芸能界、そして社会の冷酷無比な仕打ち…悲惨な“窮状証言”が続々

  4. 4

    ドジャース大谷翔平がついに“不調”を吐露…疲労のせい?4度目の登板で見えた進化と課題

  5. 5

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  1. 6

    清水賢治社長のセクハラ疑惑で掘り起こされるフジテレビの闇…「今日からシリケン」と“お触り続行”の過去

  2. 7

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育

  3. 8

    千葉を「戦国」たらしめる“超過密日程”は今年の我が専大松戸に追い風になる手応えを感じています

  4. 9

    趣里はバレエ留学後に旧大検に合格 役者志望が多い明治学院大文学部芸術学科に進学

  5. 10

    参政党が参院選で急伸の不気味…首都圏選挙区で自公国が「当選圏外」にはじかれる大異変