著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「マディバ・マジック」ネルソン・マンデラ編 和爾桃子訳

公開日: 更新日:

「マディバ・マジック」ネルソン・マンデラ編 和爾桃子訳

 人生を振り返って、あれはぜいたくな時間だったなぁとにんまりするもののひとつに「忙しい人とゆっくり過ごした」記憶がある。日頃は会うこともむずかしい多忙な人と一緒に長距離移動をした、ダラダラとおしゃべりの午後を過ごした、旅先でお酒を飲んだ……そんな思い出は宝物だ。

 数年前、ひょんなことからガーナ出身の教授とふたりきりで「待ち時間」を過ごす展開になった。暇に任せてガーナの口承民話をいくつも教えてもらった。登場するのは擬人化された動物や虫。だけど子ども向けの童話とは違う。勧善懲悪じゃない話、道徳的じゃない話がむしろ新鮮でおもしろく、夢中でメモをとった。

 今回「マディバ・マジック」を読んで、ガーナ人と過ごしたあの数時間を懐かしく思い出した。アフリカには、文字をもたない人々が歴史や知恵を継承するために語ってきたお話が無数にある。それをネルソン・マンデラさんが編んだのが本書。広いアフリカ各地から集められているのに、ウサギはこずるい、ジャッカルはマヌケ、クモは知恵者など動物ごとになんとなく役回りが決まっているのがおもしろい。

 数百年前から伝わる古い民話もあれば、ケープタウンのマレー居留地やオランダ居留地から採集された近代のお話もある。わたしがもっとも気に入ったのは、サンという民族に伝わる「月を捕まえようと奮闘するカマキリのお話」だ。今夜こそ月に飛び乗ってやるぞ! と毎晩、月の出を待ちかまえるのだけど、いつも失敗するカマキリ。なんていじらしいんだろう。今後、あの振り上げた鎌を見るたびにサンのお話を思い出してキュンとするよ。

(平凡社 3080円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭