「異邦人のロンドン」園部哲著
「異邦人のロンドン」園部哲著
春らんまんの中国の農村で、宴会に参加したことがある。今から25年前。お尻丸出しの幼児が走り回る広い庭で、日本人が歌えば中国人が踊り、たいへんな盛り上がりを見せた。あれはどこだったんだろう。連れて行ってくれた中国人の先生はすでに亡くなり確認できないが、たぶん江蘇省。宴が果て皆が上機嫌で別れを惜しむとき、シワだらけの老人が進み出た。「この村は中日戦争の激戦地で……」そこまで言うと涙ぐみ、後が続かなかった。あのときの衝撃をずっと覚えている。かつて日本人がやらかしたことを知らなかった自分への衝撃だ。
さて、本書はロンドン在住歴30年余りの日本人作家が暮らしの中で見聞きした「よそから来た人」たちのルポ。世界都市ロンドンには、多様な土地から多様な物語を背負った人が流入してくる。モザンビークからの密入国者、香港から逃げてきた一家、ロシアの資産家、ブラジル人のテニス友だち……各章が色とりどり、切なくもにぎやかで興味が尽きない。
「人種差別」の章でつづられる歴史教育の話にもグッときたが、「日本を憎んだ人たち」の章に心を揺さぶられた。著者はイギリス人との付き合いの中で、彼らが第2次大戦の対日戦──とりわけ膨大な英連邦兵が日本軍の捕虜になったこと──をいかに「根に持っている」かを思い知る。英国で書かれた日本関連本でいちばん多いのは日本文化の紹介本ではなく、日本軍捕虜収容所での体験記なんだって! 1万人以上の捕虜が命を落とし、生還した数万人も戦後その記憶に苦しみ続けた。
加害の歴史を知るのはつらい。だからこそ知って知って知らなければ。
(集英社インターナショナル 1980円)