「新装改訂版 日本の夢の洋館」門井慶喜著 枦木功写真
「新装改訂版 日本の夢の洋館」門井慶喜著 枦木功写真
明治維新後、新政府が西洋から迎えた建築家や技師によって、欧米文化や技術が流入。「洋館」も各地に出現した。現存するそうした由緒ある洋館の数々を、直木賞作家の案内でめぐる建築ガイド。
大阪の造幣寮(現在の造幣局)の応接所として建てられた「泉布観」は、現存する大阪最古の洋風建築。それもそのはず、竣工は時代が変わって間もない明治4(1871)年。
著者は、この建物の名付けからしてこの時代は何もかもが手探りだったことがよく分かるという。「泉布」とは古語で貨幣、観は館のことで、つまり造幣局の建物に「お金の家」と、何とも単刀直入な名前を付けたのだ。
内部の照明には当時の最新技術だったガス灯が用いられ、水洗トイレも完備。内装にも細かな彫刻や華麗なタイル、装飾品などがふんだんに用いられイギリス工芸品を伝える文化財としても価値が高い洋館だという。
明治22年ごろに竣工した「旧ハンター住宅」は神戸で最大級の異人館で、現在は神戸市立王子動物園の園内に移築されている。内装も外装もペパーミントグリーンで統一され、レース細工のような美しい窓が印象的なこの現在の姿は、明治40年ごろにこの館を購入した英国人実業家による大幅な改築の結果だという。
以降、明治28年竣工の法務省旧本館(赤れんが棟)、三菱財閥の洋館接待所「旧岩崎邸」など。公共施設から個人宅まで29件の洋館を、建築マニアでもある著者が、当時の人々の気概や苦悩に思いを馳せながら解説。
著者は言う。もしかしたらこれらの建物は「当時の人々からの、私たちへの挑戦状なのかもしれません。われわれはここまでの境地に達したぞ、君らはどうかね」と。美しい写真を見ていると、本当にそんな先人たちの声が聞こえてきそうだ。
(エクスナレッジ 2420円)