「101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え」堀野智子著/ダイヤモンド社(選者:佐藤優)
彼女の技法は、ヒュミントにも応用できる
「101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え」堀野智子著/ダイヤモンド社/2024年
1923(大正12)年4月9日生まれの堀野智子氏は、101歳になった現在も化粧品販売員(セールスレディー)として活躍している。去年8月には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定された。
堀野氏の技法は、ヒュミント(人間による情報収集活動)にも応用できる。第一は、否定や批判を避けることだ。
<心がけているのは否定したり批判したりしないこと。「正しい」とか「間違っている」とか、一概には言えませんよね。その人の置かれている状況などで、変わってくると思うのです。/それに他人は自分とは違う経験をしているので、話を聞くのが単純に面白いというのもあります。とはいえ、あまりに長話になると、逆にうちに来てくださっているお客様に失礼にあたるので、いつもよりは短く切り上げるようにはしていますが……>
ヒュミントの場合、情報源にこちらの意図を悟られないようにすることが重要だ。聞きたいことが1つある場合は、3~4つ、あえて関係のない質問をする。そうやってこちらの真に必要とする情報がなんであるかを曖昧にする。情報源が持ってきた情報を否定や批判しないのも、こちらが「どこまで真実を知っているか」を知られないようにするためだ。
情報源との距離についても堀野氏の見解が参考になる。
<長く仕事を続けてこられた理由の1つには、「人との距離が、近すぎず遠すぎずだったから」があるのかなとも思います。/人と人との距離は、よく「ハリネズミ」にたとえられますよね。近すぎるとお互いを傷つけあう、という意味です。/その通りだなぁと思います。親しいからといって、あまりに相手のプライバシーに踏み込みすぎるのは、結局のところお互いにとってよくありません。/かといって、せっかく人と人が関わり合うのだから、水くさいままなのもつまらないものです>
化粧品販売の顧客も、インテリジェンス活動における情報源も、家族や友人ではない。親しくなることは仕事のために不可欠であるが、これより先は相手の内面に踏み込まないという距離感が死活的に重要だ。 ★★★(2024年7月24日脱稿)