「闘うもやし 食のグローバリズムに敢然と立ち向かうある生産者の奮闘記」飯塚雅俊著/講談社(選者・稲垣えみ子)

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 今回から登場なので軽く自己紹介から。元は新聞社で働いておりまして、原発事故の衝撃から1人勝手に「超節電生活」をスタート。冷蔵庫だの洗濯機だのを手放すうちに「何はなくとも全然やっていける!」というスンバラシイ事実に気づき、図に乗って会社まで辞めてしまってなんだかんだと楽しく生き永らえているというお調子者であります。

 なので、タイトルに「ビジネスマン必読」とあるが、いわば最も「ビジネスマン」から遠い人間。大丈夫なんで? と確認したところ「あれは単なる標語なんで気になさらず」という、日刊ゲンダイらしいおおらかなお答えでしたので、お引き受けするにした次第でして。

 ただ、そう言っておきながらいきなりナンだが、私、会社を離れ日銭を稼ぐ今の暮らしを始めてから「ビジネス」ってものが初めてわかった気がしている。ビジネスとは究極、自分がいかなる役割を果たせば人に喜んでもらえるかを見つけること。決して「金を1円でも多く稼げば勝ち」なんて話じゃないのだ。

 そんなことしてたら焼き畑農業みたいなもんで、時と共に土地は痩せ、いずれは自分も負の波にのみ込まれる。そのことが組織のコマだった時は全くわからなかった。1人になり、ゼロから自分の居場所を見つけようと奮闘して初めてわかったことであった。要するにビジネスって居場所づくり。それがわかったらもう人生は大丈夫なのである。

 で、この本は私と同様「稼ぐが勝ち」の世界で生きてきた筆者が、スーパー主導の仁義なき価格競争に巻き込まれ、廃業の危機に追い込まれたところから、一歩ずつ「本当のビジネス」に目覚めていく活劇である。遠くの同志に出会った思いで一気に読んだ。八方ふさがりの日本経済に突破口があるとしたら、それはAIでもDXでもなく、このようなビジネス道を1人でも多くの人が取り戻すことなんじゃないか。

 ちなみに私がこの本に出会ったきっかけは、氏のもやしを近所の店で買い、そのあまりのウマさに衝撃を受けたことだったんだが、一昔前はそのようなウマいもやしはフツウに売られていたという。それがなぜ姿を消したのか? これぞ今ここにある闇。学校の教科書にして欲しいくらい。 ★★★

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