「私は共産党員だ! シン・日本共産党宣言II」松竹伸幸著/文春新書(選者・佐藤優)

公開日: 更新日:

「私は共産党員だ! シン・日本共産党宣言II」松竹伸幸著 

 松竹伸幸「私は共産党員だ!」は、日本共産党現執行部によって奪われた党籍を回復することを目的として刊行された。ただし、その枠組みを超えた優れた共産党論になっている。

 2004年に採択された日本共産党の現綱領は、1961年の日本共産党綱領(六一年綱領)を改正したものだ。松竹氏は1950年代の武力闘争を自己批判した後の日本共産党の魂とでもいうべき六一年綱領を厳しく批判する。

<現在の共産党員の多くは、「スターリン時代の中世的な影」が刻まれた六一年綱領のもとで活動してきた。「権力」による「党破壊」という概念が染みついた世代である。だから、「権力と結託した党破壊」「支配勢力に屈服した党破壊」がなされているということになると、党への愛情が優っている分、六一年綱領の思考が復活する場合があるわけだ>

 そして日本共産党を含む世界の共産党が行ったスターリン批判が不十分であったことについてこう述べる。

<スターリン批判は世界の共産党が試みたし、日本共産党はその先駆と見られたが、〇四年の網領改定まで影が残り続けた。しかし、私だって、自分が活動の指針にしている網領にスターリンの影が残っているという自覚はなかった。多くの党員も同じだろう。ということは、いまも共産党にスターリンの影が残っているのだけれども、誰もそれに気づかないだけかもしれないのだ。気づく力があれば、六一年綱領の問題点も早くから自覚できたはずだが、それができなかったということは、個々の党員がよほど自覚的に自省しつづけない限り、共産主義政党を悩ませる問題なのかもし
れない>

 六一年綱領に内在するスターリン主義に気づかなかったことが共産党が抱える問題の根源だという指摘は実に鋭いし、正しい。
<共産王義は、もともとマルクスが「すべてを疑え」と言ったように、自分の正しさをも疑う誠実さが内包されている考え方である。自分が無条件に正しいと信じてしまったら、それ以上に考え方を発展させることが難しくなる>という松竹氏の指摘を評者も肝に銘じたい。(★★★)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

  2. 2
    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

  3. 3
    焦る小池知事は都知事選「公務優先」もマユツバ…連日のしたたか演出で組織固めに没頭中

    焦る小池知事は都知事選「公務優先」もマユツバ…連日のしたたか演出で組織固めに没頭中

  4. 4
    ヤクルト畠山コーチが突然の退団 原因は金銭トラブルか…水原一平事件では「畠山は大丈夫か?」との声が

    ヤクルト畠山コーチが突然の退団 原因は金銭トラブルか…水原一平事件では「畠山は大丈夫か?」との声が

  5. 5
    どうするドジャース? 佐々木朗希の獲得に暗雲…他29球団は怒り心頭、さらに膨らむ恨み憎しみ

    どうするドジャース? 佐々木朗希の獲得に暗雲…他29球団は怒り心頭、さらに膨らむ恨み憎しみ

  1. 6
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8
    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

  4. 9
    杉咲花「アンメット」大絶賛 次期フジ月10杉野遥亮「マウンテンドクター」への期待と不安要素

    杉咲花「アンメット」大絶賛 次期フジ月10杉野遥亮「マウンテンドクター」への期待と不安要素

  5. 10
    佐々木希、三田寛子…我慢したのは“サレ妻”だけでない!太川陽介、立川志らく“シタ妻”を許した男の矜持

    佐々木希、三田寛子…我慢したのは“サレ妻”だけでない!太川陽介、立川志らく“シタ妻”を許した男の矜持