「『ビックリハウス』と政治関心の戦後史」富永京子著

公開日: 更新日:

「『ビックリハウス』と政治関心の戦後史」富永京子著

 日本人の政治関心への低さは世論調査などで指摘されるところで、とりわけ若者のそれはネガティブな文脈で語られることが多い。そして、その原因とされるのは次の2つだ。①高度成長以降の豊かな社会に満足し政治参加を必要としなくなった。②1960年代に生じた学生運動の過激化とその帰結が社会運動への失望を招いた。

 本書はそうした主張に対し「政治参加や社会運動への忌避を最も中心に享受した時代であり世代--70~80年代における、いわゆる『しらけ』世代が中心に享受した若者文化であるサブカルチャー誌を対象に、政治参加と社会運動の忌避、揶揄、冷笑がなぜ生じてしまったのか」を明らかにしたもの。

 中心に取り上げるのは1974年から85年まで刊行された「ビックリハウス」。読者投稿を主体とする月刊誌で、糸井重里、橋本治、YMO、とんねるず、栗本慎一郎、犬養智子らが寄稿し、中でも糸井が担当した「ヘンタイよいこ新聞」は若者の間で大いに評判になった。同時代の「話の特集」「面白半分」「宝島」といったサブカル誌は政治的・対抗的な活動を特集していたが、「ビックリハウス」にはそうした傾向が薄かった。著者はほかの3誌の政治性・対抗性と比較しながら、なぜ同誌がそれを封じたのかを政治、フェミニズム、差別などさまざまな視点から分析していく。

 結論からいえば、「ビックリハウス」によった読者(と編集者)は、既存の社会運動や対抗文化の功績を認知してはいたが、その規範性や教条主義への拒否を志向した。つまり、政治に無関心だったからではなく、消費社会の私生活に埋没したのでもない。多様性を尊重したからこそ、啓蒙や強制を伴う政治参加や社会運動を忌避したのだ。

 若者の政治離れの原因は多様的で時代による変化も大きいが、「ビックリハウス」がその源流のひとつであることは間違いないだろう。〈狸〉

(晶文社 2750円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇