「陰陽師の平安時代」中島和歌子著
「陰陽師の平安時代」中島和歌子著
今年の4月に公開された映画「陰陽師0」は、安倍晴明生誕1100年を記念して晴明の青年時代を描いたもの。野村萬斎主演の「陰陽師」以来、広く名を知られるようになった「陰陽師」だが、本書によれば「おんみょうじ」という読みは中世以降で、晴明が活躍していた平安時代は「おんようじ」と読まれていたという。
また狭義の陰陽師は、中務省管下の陰陽寮に属する国家公務員の占い師である。それとは別に、民間で占いやまじない、祈祷などを行う広義の陰陽師も存在した。本書は、平安時代において広狭の陰陽師が具体的にどのような役割を果たしていたのかを、各種史料や文学作品などを取り上げながら描いていく。
公務員としての陰陽師の占いの対象で主要なものは「災害」と「怪異」。災害は、大風、洪水、干ばつ、蝗害(イナゴの害)、飢饉、地震、疫病等々の国家的な災害を指す。怪異は、寒暑の変調、鳥獣の異常行動、樹木の突然の枯倒、建造物の鳴動・倒壊といった日常の周辺に起きる不可解な現象のこと。これらに対して、起きた原因(何の祟りか)、何の予告か、予防の時期、責任を取るべき人物は誰か、といったことを占うのだ。
一方、民間の依頼は悪夢、病、天気、出産時刻、葬送の日時・方角……といった多方面にわたる。つまり、占い師、呪術師、カウンセラー、内科・産科・メンタルクリニック、薬剤師、風水師、気象予報士、防災士、葬祭ディレクターなどを兼ねた存在なのだ。考えてみれば、現代の我々が毎朝、テレビやスマホで天気予報や星占いを見て出かけるように、平安人たちは事あるごとに総合コンサルタントである陰陽師に相談を持ちかけては、不安や心配事を解消していたわけである。
放映中の大河ドラマ「光る君へ」でも安倍晴明は重要な役として登場しているが、本書を読めば、その背景がリアルに伝わってくるだろう。 〈狸〉
(吉川弘文館 2090円)