「オリオンは静かに詠う」村崎なぎこ著
「オリオンは静かに詠う」村崎なぎこ著
木花咲季は宇都宮の若草ろう学校に通う高校1年生。ある日、学校帰りに立ち寄った「おひとりさま専用カフェ」で百人一首に出合い、歌の情景が目の前に広がっていくさまに魅せられる。そんな咲季を見た店主ママンに競技かるたを勧められ、指文字や手話通訳を介して札を取る面白さに目覚めていく。そこに普通学校に通うママンの姪カナが現れ、共に競技かるたを目指すことに。
やがて自信をつけた咲季は、担任の映美に読み手の手話通訳を頼みサークルの大会に参加し、手ごたえを感じる。しかし大会直後、映美から次のサポートを断られてしまう。
百人一首を軸に、耳の聴こえない咲季、両親の日常を手話で支えるコーダのカナ、親が聴こえない妹にかかりきりで寂しさに耐えてきたママン、事故で親友が聴覚障害になった過去を持つ映美まで緩やかにつながる4人の物語を描く青春小説。聴覚に障害がある人がどのようにかるたを取るのかも興味深いが、咲季が「競技かるた」の扉を開けたことで新しい世界を知ったように、それぞれが<聴こえる世界><聴こえない世界>の狭間で悩み、葛藤しつつどう乗り越えてきたかが読みどころだ。未知の世界へ一歩踏み出す勇気に胸が熱くなる。 (小学館 1870円)