「秘仏の扉」永井紗耶子著
「秘仏の扉」永井紗耶子著
聖徳太子をモデルに作られたという法隆寺夢殿の救世観音像は、鎌倉時代以降200年もの間「絶対秘仏」とされ、ほとんど人目にさらされたことがなかった。その扉を開けば仏罰が下ると信じられていたからだ。
ところが、そんな秘仏の扉を開けさせた男たちがいた。岡倉覚三とお雇い外国人のアーネスト・フェノロサ、実業家のビゲローだ。彼らは、無理を言って一度開けさせただけでなく、さらには宝物調査団を結成し、記録調査と称して写真を撮影するという。撮影を命じられた写真家の小川一真、臨時全国宝物取調局委員長の九鬼隆一、彫刻家の加納鉄哉をはじめ、内閣府官報局や社寺局の役人、さらには新聞記者など十余人の期待のまなざしの中、ついにその重い扉が開かれた……。
鎖国が解かれた明治時代、神仏分離と廃仏毀釈の流れの中で、立ち行かなくなる寸前まで追い詰められた法隆寺は、秘仏を外に向かって開くことでその歴史を守った。列強の国々に一刻も早く追いつこうとするあまり自国文化を捨てかねない風潮に対し、その価値を改めて世界に知らしめた人々の奮闘を熱く描いている。 (文藝春秋 1760円)