「他人屋のゆうれい」王谷晶著
「他人屋のゆうれい」王谷晶著
派遣でオペレーターの仕事をしている南大夢は、ある日、兄から、春夫おじさんの遺品整理を押し付けられた。仕方なく都内・下町にある「メゾン・ド・ミル」の404号室を訪ねたところ、大家の半ば強引な勧めもあって、大夢が居抜きで暮らすことに。伯父は404号室で便利屋「他人屋」を営んでいたらしかった。
ある日、大夢は部屋で1冊のノートを発見する。そこには業務日誌のほか、「幽霊に上着」「幽霊に靴下」などとメモがされていた。さらに向かいの部屋で本屋を営む店主・小石川に「部屋に“幽霊さん”はまだ出るのか」と聞かれる。その夜、大夢はベッドの足元に黒い人影を見てしまう。「ひっ!」。以来、幽霊は頻繁に現れ、飯を食えばトイレもし、あげくには筆談まで始まり……。
人と関わらないようにして生きてきた大夢が、404号室を出入りする幽霊の正体を追ううちに人とのつながりが生まれ、自分を取り戻していく現代版長屋噺。
かつて404号室で何があったのか、春夫おじさんはどんな人だったのか。大夢に関わる人々のエピソードを通して、痛みや弱さを持ったまま進むのが生活なのだ、と励まされる。
(朝日新聞出版 1980円)