「遥かなる山の呼び声」去って行く男とすがりつく女の物語
1980年 山田洋次監督
ふらりと現れたガンマンが悪党を退治する映画「シェーン」。本作はその主題曲「遥かなる山の呼び声」をタイトルにした。「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)に続く山田洋次監督と高倉健、倍賞千恵子の作品である。
民子(倍賞)は北海道中標津で幼い息子・武志(吉岡秀隆)を育てながら酪農を営む未亡人。嵐の夜、田島(高倉)という男が現れ、一夜の宿を求める。翌朝、田島は立ち去るがすぐに舞い戻り、ここで働かせて欲しいと申し出る。男手が欲しい民子は彼を納屋に住まわせる。田島は懸命に働き、武志は父親のようになつくが、民子は警戒心を解こうとしない。その民子に横恋慕する虻田(ハナ肇)は関係を迫ろうとして田島に撃退される。虻田は仕返しにくるが返り討ちにあい、田島を「兄貴」と慕うことに。
こうして田島は村に溶け込むが、自分の過去を語らない。やがて草競馬が開催され、田島は民子の馬で優勝。虻田と民子が大喜びする会場に刑事が現れるのだった……。
公開時のテレビCMで民子が「行かないで。私寂しい」と田島にすがりつく場面が流れ、視聴者はストーリーを察知した。生きるのに必死な女と父親を求める少年。そこに現れた男は折り目正しく民子に接する。腰を痛めた民子を抱き上げる姿は実の夫のようだ。