「遥かなる山の呼び声」去って行く男とすがりつく女の物語
ネタバレになるが、田島は亡き妻を冒涜(ぼうとく)した金貸しを死なせた逃亡者だ。事件を民子に告白する際に「殺しました」とだけ告げる。不器用な男は言い訳はしない。
彼は民子の元で長く働きたいと願うが、運命の神は許してくれなかった。それでも民子は田島の出所を待つことを心に決め、護送中の彼にハンカチを渡す。前作と同じ黄色いハンカチ。田島を見つめる民子の表情は憂いをはらみつつも本作で一番優しい。
田島が武志に「男が生きていくには我慢しなきゃならないことがいっぱいある」と教えたのは人生は試練の連続だとの意味だろう。しかし考えてみると、田島は逃亡という試練によって民子と巡り合うことができた。幸せはどこかで待っている。思いを抱きながら確かめずに終わった男と女を乗せて、列車は雪の原野を駆けていくのだった。
(森田健司/日刊ゲンダイ)