著者のコラム一覧
尾上泰彦「プライベートケアクリニック東京」名誉院長

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

世界一有名な画家ゴッホの奇行に唱えられる「梅毒説」

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 「てんかん」説も有力です。精神病院の若い医師や最晩年を送った療養所の病院長が書き残していることが根拠になっています。「統合失調症」説もあります。この病気は主に思春期から青年期にかけて発症し、幻覚や妄想といった精神病症状や意欲・自発性の低下などの機能低下、認知機能低下などを主症状とする精神疾患です。患者の男女比は同じ程度とされますが、男性のほうが重症化しやすいようです。原因はわかっていませんが、脳の神経の発達異常と関わりがあると考えられています。

 また、ゴッホの狭い興味関心、孤独な性癖から「アスペルガー症候群」ではなかったか、という説もあります。また、幻聴やめまいの症状があらわれる「メニエール病」ではないかという話もあります。耳鳴りに耐えられず自らの鼓膜が敗れるまでたたく例もあることから、「耳切り事件」はその延長ではないかというのですが、これは少し行き過ぎた推理のような気もします。

 ゴッホに限らず19世紀のフランスの芸術家が好んで飲んだのが「アブサン」です。ニガヨモギという薬草が原料で、その成分である「ツヨン」が幻覚や錯乱を引き起こすと疑われ、長く製造禁止となったお酒です。ゴッホはこのお酒を好んだと言われ、「耳切り事件」もこのお酒が原因との説もあります。そのため、お酒が奇行の原因という見方もあります。しかし、ツヨンはよほど大量に摂取しない限りは幻覚や錯乱は起こさないと言われており、ゴッホにもともとの精神疾患があり、それに拍車をかけたとしても直接の原因とはいえないように思います。

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