最新統計データでわかった「睡眠の意外な事実」 医療情報学教授が分析
(1)長寿な日本、じつはショートスリーパー
経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、2019年の日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、先進国の中で最下位レベルだったそうです。しかし「自分はそんなに長く寝ていない」という声も聞こえてきそうです。とくに現役世代で、7時間以上寝られる人は少ない印象はぬぐえません。
じつは睡眠時間の調査は難しく、やり方によって数字が異なってきます(図表)。社会生活基本調査(総務省、2021年)によれば、15歳以上の平均睡眠時間は、なんと7時間51分になっています。ただしこれは、ベッド(布団)に入ってから起きるまでの時間となっています。ベッドの中でなかなか寝つけなくても睡眠時間として含まれている可能性があるわけです。
NHKの国民生活時間調査(2020年)では、平日の睡眠時間が7時間12分に対し、土日は8時間前後となっています。平日の睡眠不足を週末に補っている実態が、垣間見られます。
睡眠時間を計測できるスマートウオッチ(ウオッチ)のメーカーであるA社が、得られたデータを公表しています。それによると、2020年の日本人の平均睡眠時間は6時間22分で、NHKの統計よりも、かなり短くなっています。また日本のIT企業であるB社が、同社の睡眠計測アプリで得たデータを集計したところ、6時間15分になったといいます(2018年12月)。
ウオッチやアプリを使いこなしているのは、健康意識の高い、比較的若い人、ビジネスパーソンが多いはずです。睡眠が短くても、元気に働けるのでしょう。
最近はウオッチの普及率が上がって、50代や60代でも、自分の睡眠の長さや質を計測する人が増えてきました。ウオッチメーカー各社が、より積極的に統計数字を開示するようになれば、もっと詳しいことが分かるようになるはずです。
(2)30~50代男性の4割の睡眠時間は6時間以下
国民健康・栄養調査(厚生労働省、2019年)には、年齢階級別・性別の睡眠時間の割合が載っています(図表)。
男性の20代では、6~7時間という人の割合が最も高くなっています(38%)。しかし30~50代では、5~6時間の人が4割近くを占めています。5時間未満も1割かそれ以上いて、合わせて半数の人が睡眠6時間以下という生活を送っていることが分かります。
女性は男性よりも睡眠時間が長い傾向がうかがえます。20代と30代では、6~7時間という人が約4割を占めています。40代になっても、この睡眠時間が1位です。しかし50代では、5~6時間という人が最も多くなっています(41%)。60歳を過ぎると、男性と同様、睡眠時間が長くなる傾向が見られます。
睡眠が長いほうでは、8時間以上が20代の男女で7%以上を占めています。とくに大学生や大学院生の中には、深夜に寝て昼ごろ起きだしてくる人も少なからずいます。授業中に居眠りをする学生もいますが、さすがにその分は睡眠時間に含まれていないでしょう。
60代以上の男性では、8時間以上が1割ないしそれ以上を占めています。引退して、やることがないから長寝しているのだとしたら、ちょっと寂しい話です。現役の人は、いまからでも趣味や楽しみを探しておいたほうがよさそうです。
女性のほうは60代で長時間睡眠の人はまだ少なく、70代に入ってから、ようやく1割を超えてきます。女性は高齢になっても元気で活動的な人が多く、やることがたくさんあるからなのかもしれません。
(3)年齢・男女別睡眠を妨げる原因トップ3
国民健康・栄養調査(厚生労働省、2019年)には、睡眠確保の妨げとなる理由の統計が出ています。そこから年齢階級別・性別のトップ3をまとめました(図表)。
20代では男女ともに「スマホ、ゲームなど(就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること)」がトップに立っています(男性43.2%、女性42.7%)。学生たちに聞くと、SNSやゲームをやりながら“寝落ち”する人も結構いるようです。2位は男女とも「仕事」ですが、女性の3位に「育児」が入っている点が印象的です。
30代になると、男女の違いが大きくなります。1位は男性では「仕事」、女性では「育児」になっています。また女性の3位に「家事」が入っています。育児や家事に対する男女の役割分担には、まだまだ大きな差があるようです。しかし2位は男女とも相変わらずスマホやゲームなどです。
30代から60代までは、男性では「仕事」が1位になっています。働き方改革などで、残業が大幅に減っているはずですが、家に帰ってから仕事をする人も多いのかもしれません。あるいは明日の準備や勉強のために、睡眠時間を削っている人も多いことでしょう。
現役世代に限れば、スマホやゲームを制限し、仕事量を軽減することで睡眠時間がかなり改善されそうです。
男性の40代以上、女性の50代以上では「健康上の理由」が上位に出てきます。具体的な病気や症状は書かれていませんが、不眠症など睡眠障害に悩む人が多いのかもしれません。中高年の10人に1人が、不眠症ないし睡眠障害という統計もあるくらいです。不眠症は、細かくは入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などに分かれます。また睡眠の質が悪い(熟睡障害)ことを、睡眠障害に加えるとする考え方もあります。うつや精神的ストレスなど、心の状態によって、睡眠に支障が生じることもよくあります。
(4)10時間以上寝る人は死亡リスクが約2倍に
睡眠不足は健康に悪いと考えられています。ところが2020年に国立がん研究センターがネット上に公開した研究結果は、その常識を覆すものでした。
約10万人(男性約4万6000人、女性約5万4000人)を対象に、20年間にわたって追跡調査し、平均睡眠時間と死亡率の関係を調べたものです。この間に約1万8000人が亡くなりました。
睡眠時間7時間の人の死亡リスクを1.00とすると、男性では5時間以下と10時間以上で死亡リスクが上がっていますが、とくに10時間以上でのリスクが1.83倍という高さでした。女性では男性ほどの差は見られませんでしたが、やはり10時間以上では、死亡リスクが1.72倍となっています。
循環器疾患に限れば、男女とも10時間以上で、死亡リスクが著しく高くなっています(男性3.61倍、女性2.71倍=図表)。また女性では、5時間以下が最もリスクが低いという、意外な結果となりました。
がんについては、男性は5時間以下のリスクが1.56倍で、その他はほぼ同等。女性では10時間以上のリスクが1.53倍で最も高く、その他はほぼ同等となっています。
まとめると、長すぎる睡眠時間はむしろ健康に悪く、だいたい7時間前後がちょうどよい、ということになります。つまり今の日本人の平均睡眠時間こそ、健康長寿に最適ということになります。長すぎれば男性では心臓病、女性ではがんでも亡くなるリスクが高まり、短すぎれば男性のがんで亡くなるリスクが上がるというわけです。
こうしたことも参考にしつつ、自分にとってちょうどよい睡眠時間を確保できるように、工夫するといいでしょう。