「農的な生活がおもしろい」牧野篤氏
「今、多くの人たちがこの社会の中で生きづらさを感じています。右肩上がりの時代は、時間がかかっても人もモノも育てようという風潮でした。金融資本主義になった現在は、育てるのではなく、今すでに手にしている者がエライという時代に変わった。それが生きづらさの背景にあるといえるでしょう。他人に評価されながら、他人と共に生きている実感のない社会。特に若者は疲れ切っています。そんな中、かつてのように専業農家になるのではなく、農山村に住みながらも都会とのネットワークを生かして暮らす“農的”な生き方に若者たちが注目し始めているんです」
自分が持つさまざまな能力や時間、労力を使って「多能」的に働き、暮らしていくスタイルは、会社勤めをし、身の回りのサービスはお金で買う都市的生き方とは対照的な概念だ。
「これまでの田舎暮らしと違う点は、新しい価値を農山村でつくり出すこと、都会を排除するのではなく交流をもちながら新しい経済をつくっていくこと、の2点です。たとえば地元文化をネットなどで発信し、都会の人に遊びに来てもらう。そこで人間関係ができれば経済は生まれます。実際、豊田市の中間山村では、私が関わったプロジェクトをきっかけに間伐材で薪を作ったところ、都心の人が買いに来るようになった。知多半島に移住した若者は、地元農家の自家用野菜の残りを都心で移動販売し、ファンがついたそうです。彼らの年収は200万円程度ですが、とにかく楽しいと異口同音に語っています」