「妻恋坂情死行」鳥羽亮氏
剣豪小説の大家による最新作は、新境地となる恋愛小説。江戸を舞台に描かれる、悲恋の底に沈む若き侍の物語だ。
「長い間剣豪小説を書いてきましたが、何か新しい作品に挑戦してみたいと思っていた頃、歌舞伎を見に行く機会がありました。私にとって人生初の歌舞伎鑑賞で、非常に感激しましてね。こういう世界観を小説の中に表現してみたい。よし、次の作品は情死モノだと(笑い)」
時は幕末。尚武熱が高まる江戸には、多くの剣術道場が門戸を構えていた。中でも、四大道場のひとつとうたわれる伊庭道場に通う旗本小暮家の次男・京四郎は、道場からの帰り道で、野犬に襲われていた隣家の娘ふさを助ける。子どもの頃から何度か見かけたことはあったものの、清楚な大人の女性に成長していたふさを面前に、強く心を引かれる京四郎。そして、ふさもまた……。
「ふたりが逢瀬を重ねる妻恋坂は、桜が満開です。この物語では、ふたりの恋の行方を春夏秋冬の四季になぞらえて表現しました。そして、場面が変わるごとに、冒頭に詩を挿入しています。その詩を読むことで、次に起こる出来事や風景を予測できるような。実は、私は若い頃に詩を書いていたことがあるんです。今回は、当時考えたフレーズを思い出しながら、新しい詩を書き上げました」