素朴な作りの丁寧な仕事
「僕のご先祖さま―ロベール・クートラス作品集」ロベール・クートラス著
現代のユトリロともいわれるフランスの画家、ロベール・クートラス(1930~1985)。没後30周年の今年、東京・渋谷、松濤美術館での回顧展に合わせ出版された画集である。
本書はグアッシュ(画材=後述)による「肖像画」のみで構成。クートラスはそれらを「僕のご先祖さま」と呼び、本書のタイトルにもなっている。
以下、あとがきから。
「……(中略)……ほんとうの先祖という意味ではありません。……貧しい労働者の環境に育ち……父親が誰かもわからないのですから」「……見覚えた『顔』と思いがけないところで遭遇し……内面に沈殿していって、一連の肖像画になっていったのでは……」「……自分という存在をつくっている大勢の人々を、自分の『ご先祖さま』と呼んでいたのかもしれません」
こうした作家のプライベートな「裏話」もまた、作品に劣らず魅力的だ。ページをめくれば人間と動物の「顔の記憶」が、穏やかで内省的な色彩・筆致で描かれている。サイズは、260×378ミリ。64ページでうち8ページは、ほぼA4と一回り小さい。中綴じ製本。たこ糸風の太い糸により、ノドに穿たれた3カ所の穴を縫うように綴じてある。温かみのある素朴な作りの、丁寧な仕事。カバーは天地が9センチ短く印象的。店頭効果も高い。カバーの下にのぞく表紙は、赤みの強い焦げ茶1色刷り(今日流行の、短いカバー/帯+表紙の「様式」については別の機会の宿題に)。