お悩み解決本特集
大人になれば、人は誰しも何らかの悩みを抱えている。かといって、いちいち誰かに相談するのも気が引ける。そんなときこそ、そっと本に手を伸ばそう。今回は、心に赤信号がともりそうなアナタに寄り添う、お悩み解決本を4冊ご紹介!
落ち込んでいるときに陽気な歌を聴くとめいってしまったのに、暗い曲調の中島みゆきの歌を聴いたらなんだか救われた。そんな経験はないだろうか。この「暗い気分のときにこそ暗い音楽を」の法則は、実は本にも当てはまるらしい。「絶望読書」(頭木弘樹著 飛鳥新社 1389円)は、「絶望したときに読むといい本」という、新ジャンルを開拓した希望の書だ。
20歳のとき、一生治らない難病を宣告された著者。長期入院をしていたとき、さまざまな人からお見舞いに本をもらうようになったが、前向きさやポジティブシンキングを説く本を、読めば読むほどかえって気持ちが沈んでいくことに気づいた。病気を克服した人の闘病記を読んでみても、励みになるどころか「こんなに立派になれない」と落ち込むばかり。
短期入院患者だと雑誌や新聞やテレビで事足りるものの、長期入院患者になると外の世界の華やかさばかりが目につき、全く救いにならなかった。そんなとき、病室ではやったのがドストエフスキーだったのだ。
今まで読書習慣がなかった人まではまり、同室の6人が「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」「地下室の手記」を回し読みするほどに。他の病室から借りたいという人までやってきて、ちょっとしたブームになってしまった。苦悩している人が何人も出てくるドストエフスキーの小説は、元気なときに読むと同じところをぐるぐる回っているかのようで、まどろっこしい。ところが絶望しているときだと、自分の分身をそこに見て癒やされ、乾いた砂に水がしみこむかのように物語が深く心に入ってくるのだという。
さらに、すぐには立ち直れないような絶望期にはカフカを、周囲は笑っているのに自分だけが悲しい孤独なときには金子みすゞを著者はすすめている。いやいや、そこまで絶望してないよという方には、日頃の避難訓練が災害時に役立つのと同様、いざというときに手に取れるよう、まずは積ん読でもいいらしい。
絶望に備えて、本棚の隅に一冊絶望本をどうぞ。
「佐藤愛子の役に立たない人生相談」佐藤愛子著
悩んだときの解決法のひとつに、経験豊かな人生の先輩に教えを請うという方法がある。となれば、この92歳の女流作家に白羽の矢を立てておきたい。どんな変化球の悩みでも打ち返してくれると信じて読み進むうち、心が軽くなってくる。
登場する悩みは、「彼氏のプレゼントセンスが悪いけど、本心を伝えられない」「弟夫婦との同居話が消えて落ち込む実家の母をなんとかしたい」「妻を亡くして5年、75歳にして60代女性に恋をしてしまった」「人類はなぜ歴史から学ぶことができないのか」など、軽いものからヘビーなものまで計25個。結婚生活が平穏すぎて退屈している専業主婦には「心配しなくても嫌なことは起こるから大丈夫」と太鼓判を押し、男を見る目がないと嘆く20代女子に「私が結婚した夫はモルヒネ中毒で死んで破産。おかげで作家人生が開けた」と返すあたりは、もはや爽快。
読み終える頃には佐藤愛子が乗り移り、向かうところ敵なしの気分になれそう。
(ポプラ社 1000円+税)
「不運と思うな。 大人の流儀6」伊集院静著
大人の男の人生上の悩みは、やはり同じ男の方が分かるはずと思う諸兄に効きそうなのが、この本。累計143万部突破の大ベストセラーシリーズ「大人の流儀」の第6弾とあって、抜群の安定感で読者の心を支えてくれる。とはいえ、タイトルからも分かるように、悩みといえども甘えを許さないのが伊集院流。「誰もが生きていれば辛い時間に遭遇するが、幸せだけの人生がないように、辛いだけの人生などない。自分だけが不運と思わないことだ」とくぎを刺しつつ、辛い時間があるからこそ手に入れられるまた別の幸せや、懸命に生きてこそ得られる生きる勇気について静かに諭してくれる。“お悩み界の武士道”と命名したくなるほどの、取り乱さない心の持ちようはお見事。嘆きたくなるような世相、個人では立ち向かえないほどの地震や災害など、ここ数年に起きた話題も織り交ぜながら、大人としてどのように考え対処していくか、背中を見せるようにして教えてくれる。
(講談社 926円+税)
「『めんどうくさい人』の接し方、かわし方」立川談慶著
人の悩みの多くは「めんどうくささ」に起因する。一筋縄ではいかない状況や人に遭遇して、こんがらがった糸をほどく羽目になるか、あるいはそこからなんとか逃走するか……。
そんなとき役に立ちそうなのがこの本。師匠の立川談志に悩みに悩まされ、鍛えに鍛えられた弟子時代、めんどうくささの極致に立った著者は、めんどうくささこそ人生好転の鍵ではないかという一種の悟りを開いた。めんどうくさい人こそ味方にしてしまえば百人力。
自分が主体となってめんどうくさいものや人に対処すれば、いつの間にかそれが自分の支援者へと変身するのだ。
さらに落語の登場人物である与太郎にはガミガミ型のめんどうくさい人へのボケ対応法を、ネチネチからんでくる人にはタイコ持ちの一八のようなツッコミ型対応法を学び、そのスキルの磨き方を紹介。真面目すぎて、おとなしすぎて、貧乏くじばかり引いてしまうような人を応援する本となっている。
(PHP研究所 680円+税)