時代小説文庫 書き下ろし特集
「流離の姫 用心棒 若杉兵庫」喜安幸夫著
夏休みが間近に迫り、仕事もラストスパート。激務で疲れた脳を癒やすには、スマホもSNSも出てこない時代小説がぴったりだ。今週は新しく始まったシリーズや4年ぶりに新刊が出たシリーズなど、書き下ろし5冊を紹介する。
「大江戸番太郎事件帳」などいくつもの人気シリーズを送り出してきた著者による新シリーズ第1巻。
加賀百万石第12代藩主・斉泰に仕える腰物奉行の兵庫は、主君から17年前、鷹狩りに出かけた板橋の山中で出会ったきこりの娘・千絵を捜し出すよう命じられる。やがて、千絵が命と引き換えに斉泰の娘を産んでいることが分かる。
千鶴と名付けられた娘は、品川の両替商嶋田屋に里子に出されていた。10年前、嶋田屋は盗賊に襲われ一家は全滅したが、兵庫は生き延びた千鶴が出生の秘密を知らずに音羽町の長屋で暮らしていることを突き止める。
千鶴を警護するため、兵庫は浪人となって長屋の隣の部屋で暮らし始める。
(KADOKAWA 680円+税)
「一身の剣 わけあり円十郎江戸暦」鳥羽亮著
陸奥国・黒岩藩主の隠し子という「わけあり」の浪人・橘円十郎を主人公にした人気剣劇シリーズ。
日本橋高砂町の口入れ屋安田屋に居候する円十郎を黒岩家の家臣が江戸家老・阿部の言付けを伝えに訪ねてくる。国元の城代家老を殺害した刺客が出府し、円十郎の命を狙っている可能性があるというのだ。現に円十郎の目の前で、家臣の2人が何者かに襲われたばかりだった。刺客は郷士と思われたが、名前も人数もつかめていない。円十郎は、依頼を受け、刺客たちを討つ仕事を請け負う。仲間の馬淵と宇佐美と酒を飲んだ帰り道、円十郎の前に3人の刺客が現れた。3人は、これまで相手にしたことのない「三身一体の剣」の使い手だった。
(PHP研究所 580円+税)
「平賀源内江戸長屋日記春風駘蕩」福原俊彦著
女だてらに父の後を継いで御用聞きになったお祥は、手下の辰吉と神田のとある屋敷に呼び出される。
屋敷では、高塚と名乗る本草学者が主催して、全国から集められた薬種や金石などを展示販売する「薬品会」なる催しが開かれていた。その会場から高塚が出品した四角形の金塊を盗み出そうとした男がいるというのだ。その男、大工の三治はいつの間にか金塊が懐に入っており、気づいて取り出したら泥棒呼ばわりされたと抗弁する。聞くと、三治は同じ長屋に住む学者の源内に頼まれ、出品物を仲間の藤次郎と届けにきたという。そんな中、藤次郎から話を聞いた源内が会場に駆けつけてくる。
元讃岐藩士の万能の才人・平賀源内を主人公にした時代エンターテインメント。
(徳間書店 640円+税)
「青春の雄嵐」牧秀彦著
法の目をかいくぐり悪事を働く悪党を密かに処刑する裏稼業人たちを描く「辻番所」シリーズ、4年ぶりの最新刊。
肥後出身の純三郎は、南町奉行所同心の立花の密偵として公儀に携わる一方で、根津権現前の辻番所の番人・留蔵が率いる裏稼業の一党に加わり、悪人たちを成敗している。
辻番所に与力の帆村と親の威光を隠れみのに殺人を重ねる息子の兵蔵に罰を与えてほしいという懇願書が届く。
そんな中、岡っ引きの正平と根津権現の門前町を見回っていた純三郎が、国のなまりを耳にして駆け付けると、娼家の用心棒に取り囲まれた祖父・伝作がいた。
純三郎がその場を収め、伝作をただすと、伝作は天領の天草でのもめ事の訴訟のためはるばる肥後から江戸にやってきたという。
(光文社 680円+税)
「正直そば 浅草料理捕物帖 三の巻」小杉健治著
岡っ引きの文蔵の手下で、浅草の一膳飯屋「樽屋」の板前・孝助は、蕎麦屋の与吉から客の作次について相談される。作次が毎回、半分しか食べず蕎麦を残すので、たまりかねて理由を聞くと「あんな蕎麦、最後まで食べられたものじゃない」と言い放ったという。蕎麦に自信がある与吉は、作次を商売敵の回し者ではないかと疑っているようだ。そんな中、与吉の店で蕎麦を食べていた小間物問屋の佐兵衛が突然苦しみだす。持病のぜんそくの発作と思われ、医者に担ぎ込まれた佐兵衛は事なきを得た。が、数日後、佐兵衛が死ぬ。孝助はその死に不審を抱き調べ始める。
実家の料理屋の没落の真相を探るため文蔵の手下として働く孝助を主人公に江戸の食と事件を描く人気シリーズ第3弾。(角川春樹事務所 670円+税)