女性たちが闘いとってきた「自身の存在価値」

公開日: 更新日:

「わたしを生きる知恵」河野貴代美著/三一書房 1700円+税

 福田前財務事務次官のセクハラ事件に対して多くの女性たちが抗議の声を上げたが、上野千鶴子は、その抗議の中に「家父長制と闘う」「ジェンダーの再生産」「自分を定義する」といった女性学・ジェンダー研究の学術用語の概念が、日常のことばとして使われていることを指摘し、女性の経験の言語化と理論化に努めてきた女性学・ジェンダー研究の果たしてきた役割を説いている。

 著者の河野貴代美は、日本にフェミニストカウンセリングの理論と実践を初めて紹介し、日本の女性学・ジェンダー研究の発展に寄与した先駆者だ。本書は、河野の個人史、「女性の生きにくさは個人の問題ではなく、社会の問題である」というフェミニズムの視点をもって女性の問題解決をサポートするフェミニストカウンセリングの方法とその実践、日本におけるフェミニズムの展開などが、河野の書き下ろしの文章と政治学・ジェンダー研究を専門とする岡野八代と河野の対談とでつづられている。

 1968年、29歳で渡米する直前まで、思春期から持ち越してきた自己確立の問題に悩んでいた河野が、NOW(全米女性機構)に参加して初めてフェミニズムと出合い、「私は私であってよい」という自己受容の感覚を得たときの感動が語られている。この気づき、意識覚醒は河野個人のみならず、それまで「非男性」のカテゴリーに入れられていた女性が、自らの存在を可視化し、自身の存在価値を自ら認知するフェミニズムへと広がり、この40年で女性を取り巻く状況は確実に変化した。

 上野がいうように、こうした変化は自然現象のように起きたのではなく、著者をはじめとする多くの女性たちが闘いとってきたものだということを、本書は強く訴えかけてくる。 <狸>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省は「品質管理徹底」と言うが…新たに放出の備蓄米「古古米」「古古古米」はおいしいのか?

  2. 2

    松山千春だけじゃない“黒い交際”が切れない芸能人たち…組長の誕生日会やゴルフコンペに堂々参加の過去

  3. 3

    中居正広氏だけが破った「SMAPの掟」…元女性アナへの“性加害”認定の泥仕合を招いたものとは

  4. 4

    回復しない日本人の海外旅行…出入国数はGWもふるわず、コロナ禍前の半分に

  5. 5

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  1. 6

    田中圭にくすぶり続ける「離婚危機」の噂…妻さくらの“監視下”で6月も舞台にドラマと主演が続くが

  2. 7

    「リースバック」で騙される高齢者続出の深刻…家を追い出されるケースも

  3. 8

    世界卓球男子ダブルス 64年ぶり金メダルのウラに“大魔王”引き立てた「ミスターダブルス」

  4. 9

    星野源が新作アルバム宣伝ポスターで“炎上”騒ぎ…「孤独はなくならない」発言で心配な新垣結衣との夫婦関係

  5. 10

    備蓄米狂騒で進次郎農相ハイテンションだが…早くも剥がれた「弱者イジメ」の化けの皮