「絵でみる 江戸の町とくらし図鑑」善養寺ススム文・絵江戸人文研究会編
江戸時代を舞台にした時代劇や時代小説を見たり読んだりしていても、描かれるのは主人公の周辺ばかりで、彼らと同時代を生きている庶民の日常や町の景色の細部まではよく分からない。
物語と地続きになっているはずのそんな江戸の町の細部をもっと知りたいと願っている人におすすめなのが本書だ。
シリーズ第2弾で、「商店と養生編」と銘打った本書では、そば屋と仕出し屋を営む瓢箪屋善右衛門を案内役に、江戸城の半蔵門から麹町5丁目までを描いた「麹町照覧絵巻」の中に入り込み、通りを散歩。軒を連ねたさまざまな商店を冷やかしながら、賑やかな町の様子や、通りを歩く人々を紹介していく。
当時の賑わいを再現して著者が描いた絵巻の通りには、臼をころがして出向き、精米を請け負う「搗き男」や、子熊を連れた「熊の肝売り」、三味線を弾きながら人形を操って人を集める「鎌倉節の飴売り」など路上パフォーマーさながらの行商人から、中間を連れた武士や虚無僧、商家の女性など、ありとあらゆる人物たちが描かれている。その一人一人を解説しながら、軒を連ねる「薬種問屋」や「両替商」「髪結い床」の各店舗にはじまり長屋、自身番小屋などお馴染みのスポットも俯瞰図で紹介する。
さらに、後半は江戸時代の専門書や長生きした著名人の言葉から、当時の養生法や養生食をイラストとともに解説。
「昨日の非は恨悔するべからず」をはじめとする杉田玄白の「養生七不可」、禅僧白隠が仙人から授けられたという「気海丹田腰脚足心」の呼吸法「内観の秘法」など、経験に裏打ちされた養生訓や健康法、そして江戸っ子たちの長生きを実現した食生活の秘密などが解き明かされる。時代劇や時代小説の副読本としておすすめ。
(廣済堂出版 1600円+税)