「大正昭和美人図鑑」小針侑起著
いつの世も男は美しい女性に目がない。週刊誌のグラビアもスマホもない明治や大正の男たちだって同じだろう。ご先祖たちは、たぶん、お気に入りの女性たちの写真を、本に挟んだり、札入れに忍ばせたりして、楽しんでいたのではなかろうか。
本書は、そんな当時の男性たちが愛でた明治、大正、そして昭和初期までの美しい女性たちを古写真で紹介する人物図鑑。
明治時代、写真が一般化するとそれまでの錦絵などの美人画に代わって、ブロマイドや絵はがきが大ブームに。そのモデルに起用されたのが当時の男性たちにとって高根の花だった名妓たちだ。
その一人、大阪屈指の置き屋・富田屋の照葉(半玉時代の源氏名は千代葉)は、15歳で恋愛事件を起こし、スポンサーの「旦那」に潔白を証明するため、自ら小指を切り落とすという逸話の持ち主。その類いまれなる美貌は、スキャンダルによって凄みを増し、今も吸い込まれそうだ。
その他、芸者から転身してアメリカで初舞台を踏み、パリではかの彫刻家ロダンからモデルを依頼されたという川上貞奴や、エキゾチックな魅力を放つ浅草オペラの人気バレリーナ・澤モリノ、「日本の恋人」とまで呼ばれた日本初の映画女優スター・栗島すみ子、松竹少女歌劇で活躍した男装の麗人・水の江瀧子ら、一世を風靡した女性たちの妖しくも美しい写真を300点以上も収録。
有名人の他にも、明治後期に化粧品宣伝のために撮影された、膝を立て、もろ肌を脱いだ和装の女性や、薄いベールでできたようなドレスをまとい豪華なソファに座る女性など、無名の美女たちも現代に十分に通用する美しさや色気を放っている。
髪形や衣装、アクセサリーなどの細部まで見応えがあり、女性の読者も楽しめるに違いない。
(河出書房新社 1850円+税)