著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「わたし、定時で帰ります。ハイパー」朱野帰子著

公開日: 更新日:

 前作「わたし、定時で帰ります。」が新鮮であったのは、「お仕事小説」の体裁を取りながらも類似の作品とは明らかに一線を画していたからだ。

 それは書名に表れている。なによりも先に「定時で帰る」ことを宣言するお仕事小説なんてあり得ない。ヒロインの東山結衣が定時で帰ることを宣言しているのは、私生活を大事にしているからだ、ということも書いておきたい。このヒロイン、子供がいるわけでもなければ結婚しているわけでもない。趣味の時間を捻出したいわけでもない。会社近くの上海飯店のハッピーアワーに間に合わないと生ビールが半額にならないのだ。これが素晴らしい。他のことをやりたいから定時に帰るのではなく、何も用事はないのに定時に帰るというのは、自分の人生を会社に支配させないという宣言だからだ。

 本書はその続編だが、何も用事はないのに定時に帰るというのは楽なことではない。そのためにヒロインはさまざまな敵と戦わなければならない。しかもその戦いは複雑な様相を呈しはじめる。結衣を定時で帰すために元婚約者の種田は会社に泊まり込むから、自分だけが定時で帰ればいいのかという問題に結衣は直面するのだ。酒好きで食いしん坊で恋愛偏差値の低いヒロインの周りに、個性豊かな人物を配置し、色彩感豊かな物語が展開するから目が離せない。4月スタートのTVドラマの原作でもある。

 (新潮社 1400円+税)



【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭