「わたし、定時で帰ります。ハイパー」朱野帰子著
前作「わたし、定時で帰ります。」が新鮮であったのは、「お仕事小説」の体裁を取りながらも類似の作品とは明らかに一線を画していたからだ。
それは書名に表れている。なによりも先に「定時で帰る」ことを宣言するお仕事小説なんてあり得ない。ヒロインの東山結衣が定時で帰ることを宣言しているのは、私生活を大事にしているからだ、ということも書いておきたい。このヒロイン、子供がいるわけでもなければ結婚しているわけでもない。趣味の時間を捻出したいわけでもない。会社近くの上海飯店のハッピーアワーに間に合わないと生ビールが半額にならないのだ。これが素晴らしい。他のことをやりたいから定時に帰るのではなく、何も用事はないのに定時に帰るというのは、自分の人生を会社に支配させないという宣言だからだ。
本書はその続編だが、何も用事はないのに定時に帰るというのは楽なことではない。そのためにヒロインはさまざまな敵と戦わなければならない。しかもその戦いは複雑な様相を呈しはじめる。結衣を定時で帰すために元婚約者の種田は会社に泊まり込むから、自分だけが定時で帰ればいいのかという問題に結衣は直面するのだ。酒好きで食いしん坊で恋愛偏差値の低いヒロインの周りに、個性豊かな人物を配置し、色彩感豊かな物語が展開するから目が離せない。4月スタートのTVドラマの原作でもある。
(新潮社 1400円+税)