「償いの雪が降る」アレン・エスケンス著、務台夏子訳
たのしみな新人作家が登場した。読み始めたらやめられない面白さだ。
主人公は大学生のジョー・タルバート。年長者の伝記を書く、というのが授業の課題だが、身近なところに知り合いがいないので介護施設を訪れると、カール・アイヴァソンという老人を紹介される。彼は30年以上前に14歳の少女をレイプして殺した罪で有罪判決を受け、ずっと服役していたが、末期の膵臓がんで今や死を待つ身。で、釈放されて介護施設にいるというわけ。カールがインタビューに同意してくれたので、ジョーの取材が始まるが、そのうちに30年以上前の事件に興味を覚えて、調べていくことになる。もしかしたらカールは真犯人ではないのかと。
という話だが、回想シーンが印象的で鮮やかであること、自閉症の弟と、男遊びをやめない母親がいて、振り回されること。さらには、アパートの隣に美人の女子大生がいて調査を手伝ってくれること――とジョーの私生活も過不足なく描かれ、元死刑囚カールの造形も秀逸だ。死刑囚の無実を晴らしたら、やっぱりそいつが犯人だったという小説を読んだことがあるので、これもそうだったらイヤだよなあと読み進んだが、はたしてどうなるかは、当然ながらここに書かない。
なによりもいいのは、人生のつらい面、過酷な面をきっちりと描いていながら、それでもなお、温かな気持ちにさせてくれることだ。
早く次作を読みたい。
(東京創元社 1180円+税)