「戦場のアリス」ケイト・クイン著 加藤洋子訳
第1次大戦中、ドイツ軍が占領している北部フランスで、ひそかに活動を続けていた女性たちがいた。それがアリス率いるスパイ網だった――というのは歴史的事実だが、あまり知られていないと著者あとがきにある。
本書は、その実話を基にしたスパイ小説で読みはじめるとやめられなくなる。それは人物造形が素晴らしく、構成が巧みだからである。たとえば、話は2つに分かれている。ひとつは1947年のシャーリーの物語だ。彼女は第2次大戦中に行方不明になった、いとこのローズを捜している。で、その消息の鍵を握ると思われるイヴのもとを訪れる。で、イヴと一緒にローズを捜す旅に出る。
もうひとつは、旅の途中でイヴが語る30年前、つまり第1次大戦中のスパイ活動の日々だ。このイヴという酔いどれの中年女が、アリスに率いられたネットワークで活躍していた女性スパイだったのである。というわけで、2つの話が語られていくが、もちろん最後には合流する。
この小説が素晴らしいのは、話が圧倒的に面白いこともあるが、なによりもその着地が秀逸であることだ。復讐をなし遂げれば、本当に心の安定は得られるのか、という問題を前にしたときの解決策がここにあるのだ。イヴの復讐を止めるために、シャーリーが取った究極の行動とは何か。その最後の地点まで読者をぐいぐい引っ張っていく強い筆致がホント、素晴らしい。
(ハーパーコリンズ・ジャパン 1204円+税)