「雑誌に育てられた少年」亀和田武著
コラムニスト、亀和田武のバラエティーブックである。
亀和田武の雑文集は「1963年のルイジアナ・ママ」(1983年)、「ホンコンフラワーの博物誌」(87年)に続いて3冊目だが、今回は高校2年生のときに書いた書評から、69歳のときに書いたエッセーまで、なんと50年間の雑文集大成なので読みごたえがある。
なにしろ内容が多岐にわたっているのだ。SF、プロレス、ジャズ、映画、ポルノ、劇画、喫茶店、雑誌、文学、テレビ、街――とありとあらゆるものが対象になっている。著者の好奇心が全方位に爆発していると言っていい。小説宝石に連載中のエッセー「夢でまた逢えたら」でいつも驚かされるのは著者の記憶力で、よくもまあこんな細かなことを覚えているものだと感心するが、本書も例外ではない。この50年間のカルチャーシーンのすべてがここにある、と言っても過言ではない。
香港の映画監督ウォン・カーウァイを論じたエッセーを読むと、無性に彼の映画を見たくなるし、渋谷のジャズ喫茶の変化を語るエッセーを読むと、ブラッドベリの短編「霧笛」を読みたくなる(どうしてなのかは、滋味あふれるエッセー「最後の恐竜と渋谷の路地について」を読まれたい)。
自販機雑誌の編集者時代を描いた「小説ザ・ポルノグラファー」と、「ラリー・フリントになりたかった」もいい。
(左右社 2750円+税)