著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 大沢在昌が久々にSFの世界に帰ってきた。「新宿鮫」シリーズという大変刺激的な警察小説で知られるこの作家は、近未来の東京を舞台にした「B・D・T〔掟の街〕」や、美女の脳を移植された女性刑事を主人公にした「天使の牙」などの傑作SFを一方で書いてきた。それらの作品は、正しく言えば「SF的シチュエーションを導入した現代エンターテインメント」と言うべきだろう。つまりSFを読み慣れていない読者でもたっぷりと楽しめる面白小説である。そちらのラインの新作が本書だ。

 今回の主人公は、警視庁刑事部捜査1課の巡査部長、志麻由子。連続殺人犯が現れそうな場所で張り込んでいるところを襲われ、首を絞められて気を失うところから、本書は始まっていく。目が覚めるとそこは、オーストラリアを中心とした太平洋連合との戦争には勝ったものの(アメリカは戦争に負けてメキシコに吸収されている)、長い戦いに経済は疲弊し、物資が配給制の世界になっている。エネルギー資源に乏しいので銀座は薄暗く、犯罪組織がはびこり、警官の汚職も多い。承天52年に戦争が終わり、いまは光和27年。そういう世界に、由子はタイムスリップしてしまうのである。

 つまりこれは、パラレルワールドものだ。はたして彼女は元の世界に無事帰ってくることができるのか。ここから始まる波瀾万丈の物語を、私たちは固唾をのんで見守ることになる。

 (朝日新聞出版 1800円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  2. 2

    大リストラの日産自動車に社外取締役8人が「居座り」の仰天…責任問う大合唱が止まらない

  3. 3

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  4. 4

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由

  2. 7

    所属先が突然の活動休止…体操金メダリストの兄と28年ロス五輪目指す弟が苦難を激白

  3. 8

    大阪万博は値下げ連発で赤字まっしぐら…今度は「駐車場料金」を割引、“後手後手対応”の根本原因とは

  4. 9

    芳根京子“1人勝ち”ムード…昭和新婚ラブコメ『めおと日和』大絶賛の裏に芸能界スキャンダル続きへのウンザリ感

  5. 10

    国民民主党・玉木代表は今もって家庭も職場も大炎上中…「離婚の危機」と文春砲