「会社を綴る人」朱野帰子著
32歳の紙屋は派遣社員を10年続け、ようやく小さな製粉会社の正社員職を得た。しかし、注意散漫で自信がなく、何をやってもうまくいかずに、同僚の邪魔になるばかり。もう何もしないでくれ、と言われるほどのダメ社員が主人公のお仕事小説である。
父は気象予報士兼タレントで、母は料理研究家、さらに兄はサウジアラビアで巨大ビルを建設中。意欲ばりばりの家族に比べてこの青年、引っ込み思案だから恋人もなく独身。運転免許を取りに教習所に行ったときには路上に出た途端、頭が混乱して断念という経験の持ち主だから困ったものだ。
彼の取りえはただひとつ。文章が書けること。しかし、「あのときは、ついに文才ある人間が我が家系に出たか、と思ったよ」と兄が言うほどたいしたことではなく、中学1年のときの区の読書感想文コンクールで佳作に入っただけにすぎない。
たしかにそうなのだが、とりあえず、自分にはそれしかない、と総務部に配属された彼は、予防接種の呼びかけメールを作成するのに3時間かけて大奮闘。そういうところからこつこつやるしか、彼には方法がないのだ。
会社にも問題があって、それほど理想的な会社でないことを知ること、匿名で彼の悪口を書くブロガーが社内にいることなど、いろいろあり、次々に個性的な人物も立ち現れて、彼も大変だが、さあ、紙屋、頑張れと、気がつくとエールを送っているのである。
(双葉社 1400円+税)