「人間」又吉直樹著
「人間」又吉直樹著
主人公の永山が、美術の専門学校に通っていた学生時代を回想するところから物語は始まる。当時漫画家になりたかった永山は、美術系の学生が住んでいる「ハウス」と呼ばれる共同住宅に住むようになり、そこで出会った芸術家の卵たちの競争心や自意識にさらされながら暮らしていた。
そんなある日、仲間内で開いた作品展に永山が出した「凡人A」という連作の絵に興味を持った編集者から作品を別の形にして書籍化してはどうかといわれて承諾する。だが、いざ創作しようとすると筆が進まず、鬱屈とするばかり。
ところが、創作を応援してくれた女の部屋でやけ酒を飲んで寝てしまった翌日、永山は女から酔った自分が口走ったという物語のメモを見せられたことをきっかけに、一気に物語をまとめ上げる。本が刊行されると、思った以上の評判に嫉妬や臆測などの反響が起こり、さらに予想外の出来事が待っていた……。
本書は、2018年9月から翌年5月まで毎日新聞に連載された小説に加筆修正を加えて単行本化したもの。何者かになろうとしてもがく表現者の葛藤を、真正面から赤裸々に描いている。
(毎日新聞出版 1400円+税)