「教養としての『国名の正体』」藤井青銅氏
「オーストラリア」と「オーストリア」。なぜ国名が似ているのか、疑問に思いつつ放置して分からずじまいという人も多いのではないか。来年はオリンピックイヤーで、世界中の国々から多くの人がやってくる。そんな年を、各国の国名の起源を知る機会にしてはいかがだろうか。
「北京オリンピックの開会式、入場行進時のプラカードの国名は漢字表記でした。これをテレビで見ていた時、私の目に飛び込んできたのが『黒山』という国名。そんな国あったか!? としばし調べて、イタリア語で“モンテ(マウント)=山、ネグロ(かつて使われた蔑称のニグロと同じ)=黒”で、なるほどモンテネグロか。黒い山がある国なのかと分かりました。日本では多くの国名をカタカナで認識しているため、その意味に気づきにくいですが、国名には“名は体を表す”ヒントが隠されていて、その国を知るのに大いに役立ちます」
本書では、外務省のHPに掲載されている195の国と5つの地域、加えて日本の由来も解説。世界の国をより身近に感じるとともに、意外にも適当に付けられている国名の多さにも驚かされる。
モンテネグロのように、その土地の特徴や象徴的な地形を国名にする例は多い。オランダの正式名称はネーデルランドだが、これは「低い土地」という意味で、実際に国土の4分の1は標高0メートル以下。このオランダから分かれて独立したベルギーも、ケルト語の「bol(沼地)」と「gai(湿地の森林)」を合わせてできた国名だ。
「土地の特徴の亜種で特にいい加減なのがカナダ。16世紀にフランスからやってきた探検家が先住民に『ここは何という場所か』と尋ねると、『カナタ』と返ってきたため、1547年の地図にカナダと記載されました。しかし、先住民は単に『村だ』と答えただけだったようで、カナダは国なのに村という名前に。カナダ村というテーマパークもありますが、あれは“村村”ということになるんですね(笑い)」
地理命名の国は非常に多く、本書では「山河大地国名」「海洋諸島港湾国名」「方角中心辺縁国名」など分かりやすくジャンル分けしている。また「似ている国名」の章も興味深い。冒頭のオーストラリアとオーストリアは、特に関わりはないが似てしまった“他人の空似”だという。
「オーストラリアは『テラ・アウストラリス・インコグニタ(未知の南方大陸)』のアウストラリスからきていて、オーストリアは「オストマルク(東の辺境区)」が由来。これがカタカナだとどちらも「オー」からになるので分からなくなるんです」
他にも、ウサギ(ヒスパニア)がたくさんいたからエスパーニャとなったスペイン、コケがモジャモジャの木が密集していたから「ひげの生えた(バルバド)」が国名となったバルバドスなど、よく言えばユニーク、別の言い方をすればいい加減な国名のオンパレードだ。では、日本はどうか。
「“日出ずる処”などと言って格式と伝統があるように感じるかもしれませんが、日本の国名には中国から見ての方角という要素が潜んでいたり、山に囲まれたヤマトから倭、大和、日本、読み方もじっぽん、にっぽん、にほんなどさまざま変わってきた。日本もいい加減なもので、偉そうにすることはないんです。国名を知ることは、歴史と地理の両面からその国の全体像を把握して親しむことにも役立つはず。オリンピックイヤーに向けて、ぜひ役立ててもらいたいですね」
(柏書房 1700円+税)
▽藤井青銅(ふじい・せいどう)1955年、山口県生まれ。作家・脚本家・放送作家。落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。「『日本の伝統』の正体」「『日本の伝統』という幻想」「ラジオな日々」「幸せな裏方」「『超』日本史」「元号って何だ?」など著書多数。