「銀行ゼロ時代」高橋克英氏
ネットで送金をし、スマホで支払いをし、コンビニなどのATMで現金を引き出すのが当たり前の時代。銀行の店舗がなくても困らないという人は少なくないだろう。
「多くの銀行が店舗機能の見直しや統廃合を進めており、メガバンクも例外ではありません。みずほフィナンシャルグループでは2026年度末までに1万9000人の人員を削減するとしています。三菱UFJ銀行では2020年春の新卒採用を45%削減予定など採用抑制も進んでいます」
本書では、銀行の危機と迷走を明らかにしながら、現実味を帯びてきた銀行の店舗が消滅する可能性について解説している。著者は銀行勤務のキャリアを持ち、業界内部を知り尽くしているだけあってその指摘は厳しい。
「銀行のビジネスモデルは、貸し出し、手数料、有価証券運用という3本柱で固まっています。しかし、人口減少、低金利、デジタル化という三重苦に直面し、大苦戦を強いられています。とはいえ、これはどの業界にも影響を及ぼすもので、予測できる危機であったはず。他の業界は変化することで生き残りを図っていますが、銀行は無策で対応ができていないのです」
銀行特有の苦難を挙げるとしたら、監督官庁である金融庁の迷走だろう。銀行業務のデジタル化が進み、巨大IT企業からの参入が進んでいる。既存銀行のビジネスの余地は狭まるばかりだが、金融庁は理想論を捨てきれていないと著者は指摘する。
「金融庁が掲げる施策の象徴が、貸出先の成長性を銀行員がしっかりと目利きしてコンサルティングなどの本業支援を行いましょうという『事業性評価』と、顧客本位の金融商品やサービスの提供を目指す『フィデューシャリー・デューティー』。ようは“お客さまのニーズに応えよう”という至極当たり前の単なる正論に過ぎず、他の業界からすれば、“今さら?”でしょう」
昨今、住信SBIや楽天、イオンなどのネット銀行が好調なのは、店舗を持たず人員が少ないこと、そして法人向け貸し出しではなく住宅ローンなど個人向けビジネスを中心としているからだと本書。さらに注目すべきは、巨大IT企業による「AIレンディング」(オンライン融資)だという。法人向けではクラウド会計データを、個人では年収などをAIが分析し、融資条件を設定するサービスだ。審査スピードや金利水準など、銀行と比べて多くの優位性があると解説している。
「時間もコストもかかる銀行員による対面審査をベースとした貸し出しを主とし、しかもコンサルティングや目利きを提供するというユートピアの世界に浸っていたのでは、銀行の淘汰は進む一方です」
みずほフィナンシャルグループでは、ソフトバンクと共に出資する「Jスコア」でAIを使った個人向け貸し出しを開始した。また、LINEと組んでネット銀行を開業する予定だというが、“庇を貸して母屋を取られる”結果になりかねないという懸念もある。それでも得るものがあると判断したであろうみずほの決断が、現在の銀行の追いつめられた立場を表していると本書。
「実は“銀行ゼロ時代”はユーザーには悪い話ではない。デジタル化により利便性が向上したり、店舗がなくなった分、金利にプラスになったりと、多くの利点が考えられます」
こう話した上で著者は、代理業として納骨堂と連携するなど“古巣”の奇抜な生き残り策も提示している。銀行関係者にとっては耳が痛く、他業種にとっては変化の大切さを学ぶ上でも役立つだろう。
(朝日新聞出版 790円+税)
▽たかはし・かつひで 1969年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。青山学院大学大学院経済学修士。三菱銀行、シティグループ証券などで銀行クレジットアナリスト、資産運用アドバイザーを務める。金融コンサルティング会社を設立し、執筆、講演など広範に活動。著書に「地銀大再編」など。