「毒親介護」石川結貴氏
「介護は家族関係をむき出しにします。親と子の関係だけではなく、きょうだいや夫婦関係においても、これまで蓋をしてきた問題や過去が噴出してしまうものなのです」
ましてや毒親の介護の現場ではどれほど大変なことが起きているのか。本書は精神的・身体的に子どもを傷つけたり、勝手な言動を繰り返してきた親=「毒親」を介護する娘や息子たちの現実を丹念に取材し、専門家のアドバイスなど具体的な対応策を示す一冊だ。
毒親には2パターンあるという。
「ひとつは、明らかな毒親です。子どもが幼い頃から殴る蹴るなどの暴力を振るったり、飲んだくれて育児放棄したりしてきたようなパターン。もうひとつは、親が年老いて初めて、うちの親は毒親だったと気付くパターンで、より深刻なのは後者です」
前者は毒親であることが周知されているから相談しやすいし、子が介護をしなくても理解が得やすい。対して後者は一見、問題のない普通の親に思えるため、子は苦しみを周囲と共有するのが難しく、ひとりで罪悪感を抱えがちになる。
「私が取材で会った60歳の田島康代さん(仮名)が後者ですね。妹には甘い母親で、孫には小遣いをあげる気前のいいおばあちゃんだけど、長女の康代さんには、食事にケチをつけたり、旅行に出かけようとすると不機嫌になるなど、ところどころ毒針を刺してくる。でも、十分に愛されなかったからこそ、きょうだいで差別されてきたからこそ、死ぬ前に『ありがとう』と言わせたいと、介護を頑張ってしまうんですね。夫に『異常』と言われ、ストレスで心身が不調になるくらいに。家族の業というのでしょうか。理屈では割り切れない、人の心の複雑さを感じました」
さらに、老いに伴って毒親的に見えてくる親もいるという。
「老化現象や認知症が入ってくることで、若い頃は普通だった親が、毒親化してくることはあります。車の運転をやめてと頼んでも聞く耳を持たないとか、金銭的に依存してくるとか。子は誰しも多かれ少なかれ、老いた親の問題行動に苦しめられていると思います」
毒親、あるいは毒親的な親の介護は、いざ向き合うと暗い過去がよみがえり、時間とともに苦しみが増すのが特徴だ。もしそんな状態になったら著者は、「親を『捨てる』のも選択肢のひとつ」とアドバイスを送る。
「捨てるといっても前提があって、行政につないでおくことは大切です。その上で、自分で抱え込んで親が憎くてたまらなくなったり、虐待したりするくらいなら、最悪の結末を避けるためにも、捨てていいと思います。私が伝えたいのは、自分の人生を優先してほしいということ。残念ながら、親はあと数年で死ぬんです。でも、介護している子の人生はこれから30年続きますから」
本書の後半には、ケアマネジャーに相談する際のポイントや、介護を嫌がる親を納得させるアプローチ法など、実践的なヒントが並ぶ。これらは取材を通して必要と感じた情報であるとともに、著者自身の介護経験にも基づいている。
「離婚した夫の母を見るという、貧乏くじのような(笑い)、思わぬ運命を背負ってしまって。数年のことだろうと引き受けたものの、まあ、大変でした。それまで気付かなかった自分の残酷さや醜さを目の当たりにし、同時に、人はきれい事では生きられないと知ったんです。誰もが苦しみや悲しみを背負っていて、それでも生きていくしかないんだと。この経験があったから、この本の取材ができたと思います」
(文藝春秋 800円+税)
▽いしかわ・ゆうき ジャーナリスト。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに書籍の刊行、雑誌連載、テレビ出演、講演会など幅広く活動する。著書に「スマホ廃人」「ルポ 居所不明児童―消えた子どもたち」「お母さんと子どもの愛の時間」など多数。