「世界は幾何学で作られている」アミーア・アレクサンダー著 松浦俊輔訳

公開日: 更新日:

「この偉大な書物、つまり宇宙は数学の言葉で書かれており、その文字は三角形や円などの幾何学的図形」であると言ったのはガリレオ・ガリレイだ。古来、幾何学は完璧な秩序、回想、調和を表し、普遍的な秩序の象徴であり、時に政治権力の道具となった。

 本書冒頭には17世紀フランスの大蔵卿フーケが自分の城館に壮麗な幾何学模様の庭園を造り、それを知ったルイ14世が怒ったというエピソードが引かれている。というのも、幾何学模様を駆使した庭園は絶対的秩序、権力の象徴であり、それを配下のフーケが自分を差し置いて造ったことに対しルイ14世は憤ったのだ。王はフーケの庭園を破壊・略奪し、新たに壮大な平面幾何学式庭園を建造した。ベルサイユ宮殿である。

 本書は、幾何学はいかにしてその高い位置を得たのかを、西欧の事例を中心につづっている。古代ギリシャに生まれた幾何学は、ルネサンス期の透視図法の発明によって自然風景を平面に投影できるようになる。その典型が幾何学的庭園であり、権威と威光の並ぶもののない源泉となった。

 フランスのべルサイユ宮殿を起点に、この幾何学的秩序は、ウィーン、サンクトペテルブルク、スペイン、イギリス、さらにはニューデリー、マニラ、モロッコといった植民地へも伝播(でんぱ)していく。そして新大陸では、放射状の街路とグリッド上の街区の組み合わせによる美しい幾何学都市・ワシントンが建造される。

 こうして幾何学は長年にわたって永遠不変の原理を示すものだったが、その地位が揺らぐ時がやってきた。非ユークリッド幾何学の発見である。非ユークリッド幾何学においては一直線外の一点を通り、これに平行な直線は一本とは限らず、三角形の内角の和は180度にならないなど、それまでの絶対的な秩序を保つことができなくなる。

 代わりに登場するのは相対性であり多様性である。ダイバーシティーが重視されるようになった現代社会は、非ユークリッド幾何学という新たな幾何学がもたらしたものなのかも知れない。 <狸>

(柏書房 3400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭