「女ともだち 靜代に捧ぐ」早川義夫著
1960年代末、ロックバンドのジャックスは独特のオーラをまとい、その後のロックシーンに大きな影響を与えたが、短い活動の後に解散。その後、中心メンバーの早川義夫が本屋さんになり、「ぼくは本屋のおやじさん」という本を出した。その頃、川崎の本屋まで行って話を聞いたことがある。しばらくして、今度は本屋をやめて音楽活動を再開したという話が流れた。そしてまた何年か過ぎ、亡くなった奥さんを悼むエッセー集が出たことを知った。それが本書だ。
著者と妻の靜代(しい子)は大学のクラスメート。最初の自己紹介で彼女が赤色のワンピースを着ていたのが印象的で、後に「赤色のワンピース」という曲を作る。
ある日、どんな人と結婚するのかと聞くと「一番最初にプロポーズをしてくれた人」というので、即プロポーズして結婚。以来、夫はいつも妻を頼って生きてきた。歌ができた時や文章を書いた時、ホームページの日記もツイッターも時にはメールの返信まで、妻にチェックしてもらう。時には浮気相手の女性としけ込んだはいいものの途中で気が変わり、どうしたらいいかを電話で聞くなんてことも。
第1部は、恋愛体質の著者が関わった女性たちを語りながら、そんな夫を寛容に受け入れる妻が描かれる。第2部は2人の出会いから、娘たちのこと、妻にがんが発覚してからその死までが書かれていく。
一見淡々とした筆致ながら、時に「どうしてしい子はいなくなってしまったのだろう。……しい子をもっと笑わせたかった。もっと、もっと喜ばせたかった。いっぱい優しくしてあげたかった。しい子を幸せにしてあげたかった。僕なんかが残ってしまい、どうしろってんだ」「寂しい。しい子が今ここにいてくれたらなとつくづく思う。……もしも会えたなら、もう絶対離さないぞ、病気にさせないぞ」といった言葉が吐露される。しい子さんは、そんなみっともなくあたふたする夫を見て、「かっこ悪いことはなんてかっこいいんだろう」と天国でほほ笑んでいるに違いない。 <狸>
(筑摩書房 1500円+税)