「音楽を感じろ」ニール・ヤング&フィル・ベイカー著 鈴木美朋訳

公開日: 更新日:

 映画「いちご白書」で、主人公のサイモンとリンダが買い出しから帰ってきて仲間の待つ講堂のドアを開けるのとほぼ同時にニール・ヤングが歌う「ヘルプレス」が流れてくる。川を照らす真っ赤な夕焼け、夕空に浮かぶ白い月、疲れ切った学生たちの姿が交互に映し出されながら物悲しい歌声が重なっていく。それがニール・ヤングとの出会いだった。

 それから50年。ニール・ヤングはいまだ現役のミュージシャンであり、環境保護活動、障害者支援など幅広い活動を行っている。本書は、そのニール・ヤングが果敢に挑戦したハイレゾ音源ダウンロードサービスと専用プレーヤーの開発をめぐる闘いの記録だ。

 最高の音質で音楽を録音しようと努めるミュージシャンにとってCDやMP3などのデジタル音源は「浅く平べったく濁った響き」であり、このままでは将来まともな音楽を聴くことができなくなってしまう。それに対してニール・ヤングはかねて音楽業界と技術業界に対して抗議してきたが受け入れられず、業を煮やしてついに自ら音質の優れた専用プレーヤーを開発した。それがハイレゾプレーヤー、PONOだ。

 本書はニールの音質に対する哲学的な考察と、彼とともにPONOの開発に携わったプロダクト・マネジャーのフィル・ベイカーによる技術やマネジメントに関する考察と経過報告とから構成されている。

 CDにおいてはアナログ音源のデータのおよそ75%が失われ、MP3では残るのはわずか5%。それに対してハイレゾは95%保持できる。しかしハイレゾ音源は価格が非常に高く、また携帯電話に匹敵する持ち運びしやすい一体型でなければならない。この難問をいかに克服できるか。試行錯誤の上ようやくPONOが完成するが、同時に立ち上げたダウンロードサービスは開設後、間もなく閉鎖に追い込まれてしまう。

 とはいえ、ニールの高音質への飽くなき追求はやまず、今はハイレゾストリーミングに期待をかけているという。ニール・ヤングの闘いはまだまだ続きそうだ。 <狸>

(ストランド・ブックス 3000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  4. 4

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  5. 5

    田中圭が『悪者』で永野芽郁“二股不倫”騒動はおしまいか? 家族を裏切った重い代償

  1. 6

    のんが“改名騒動”以来11年ぶり民放ドラマ出演の背景…因縁の前事務所俳優とは共演NG懸念も

  2. 7

    ダウンタウン「サブスク配信」の打算と勝算……地上波テレビ“締め出し”からの逆転はあるか?

  3. 8

    1泊3000円! 新潟県燕市のゲーセン付き格安ホテル「公楽園」に息づく“昭和の遊び心”

  4. 9

    永野芽郁と橋本環奈…"元清純派"の2人でダメージが大きいのはどっち? 二股不倫とパワハラ&キス

  5. 10

    田中圭“まさかの二股"永野芽郁の裏切りにショック?…「第2の東出昌大」で払う不倫のツケ