「東電福島原発事故 自己調査報告 深層証言&福島復興提言:2011+10」細野豪志著、開沼博編、林智裕・取材/構成徳間書店/1700円+税
東京電力福島第1原発事故から10年、事故後内閣府特命担当大臣として原発事故や除染などに携わった細野豪志氏が多くの関係者と会い、当時何が起こっていたかを対談形式で深掘りする。最終的には「科学が風評に負けるわけにはいかない。処理水の海洋放出を実行すべき」など、6つの提言をしていく。
本書を読んで印象的な部分をいくつか引用するためにタイピングしていたのだが、その量が膨大になってしまった。印象的な部分が多過ぎたのだ。正直読み終わった今でも「一体オレはこの本をどう紹介していいのやら……」と途方に暮れてしまった。
原発については誤解と対立と政治的主張、そして人間の尊厳や命がかかわるだけに、次々と新たなイシューが登場する。さらには福島差別の実態や、関係者の奮闘や絶望などが随所に表れ、一体部外者である私がこの件について何を言っていいのやら、と思うと同時に、どこか他人事だったのでは、という反省心が自然と湧いてくるのである。
そうした意味では、10年という節目で少しでも人間の心がある者は本書を読むべきだと断言する。当時、菅直人政権の中枢にいた細野氏はその対応を相当批判されていた。「政権は何もしていない!」「放射線が東京に来たらどうするのだ!」などの批判の矢面に立たされていた細野氏だが、文句を言うだけだったら誰にでもできる。同氏はそうした批判を受け止めたうえで、正しい知識を得て、最善の政治判断をしようとしていたことが分かる。
〈「被曝とは無関係に、もともと甲状腺がんは高い比率で潜在していた」ことを疑わせる結果が出てきたわけですね。福島から遠く離れた青森県、長崎県、山梨県の3県でも、4000人の健康な子供たちを対象とした比較調査が実施されましたが、3県と福島との間にも統計上の有意差は見られなかった。〉
「福島の子供たちが甲状腺がんになっている」という「放射能デマ」はよく知られるところだが、細野氏はこのようにデータと科学を駆使して否定する。
当時の福島県知事・佐藤雄平氏の「福島の原発で作られた膨大な電気は地元では使われず、全て首都圏に送られていた」は重い言葉だし、構成担当・林智裕氏の次の言葉には諦めと怒りが感じられる。
〈一言で集約すれば「理不尽」。「『ただ福島に暮らしていた』それだけで、どうしてこんな目に遭わされなければならなかったのか」、に尽きます。〉 ★★★(選者・中川淳一郎)