「2040年の未来予測」成毛眞著/日経BP
未来予測、特に長期の予測は、本当に難しい。経済や社会に関する幅広い知識が必要だし、深い洞察力が不可欠だからだ。著者の本業は科学技術だから、その分野の予測は説得力がある。例えば6Gのスマホだ。私は、5Gにも追随できていないので、超高速大容量で遅延のない6Gが、2040年に当たり前になっているという予測に驚いた。そうであれば、あらゆるものがネットにつながり、社会は大きく変化しているはずだ。また、夢の核融合炉も、2025年にも実験が開始され、順調に行けば2035年に本格稼働するという。そんな近い未来にエネルギー革命が起きることを、正直私は知らなかった。
ただ、私が一番興味を持ったのは、著者の本業ではない経済の部分だ。ここでも著者は快刀乱麻の論評を繰り返している。
例えば、MMT(現代貨幣理論)は、救世主になるかもしれないという。著者によるとMMTは「自国での通貨を発行できる国は財政破綻することはないという理論」で、「極論では、無制限にお金を刷っても問題はない」としている。
もしこの発言を経済学者のなかでしたら袋叩きに遭う。MMTは、財政出動と雇用創出プログラムを組み合わせた経済理論なのだとか、MMTはインフレの起きない範囲での財政赤字を容認しているだけだとか、異論が噴出するのだ。ただ、そんな揚げ足取りに向き合っていると冗長になって、一般の読者は混乱してしまう。細かい話を思い切って捨象し、本質の部分だけで議論しているからこそ、本書は読みやすいのだ。
もちろん、本当にそうかと思う部分はある。例えば著者は、資産運用は株式インデックスファンド一択だとしている。私は、そう思わない。インデックスのなかには将来性のないクズ株が含まれているし、いまから買うとバブル崩壊で痛い目をみる可能性が高いからだ。
ただ、全体としてみると、本書に書かれていることの8割は、正しいのではないかと思う。そして、たった一人で未来予測をしたために、矛盾のないすっきりした経済社会のグランドデザインが描かれている。そうした意味で本書は、未来を考えるための最高の道しるべだ。 ★★半(選者・森永卓郎)