「スマホ脳」アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳 新潮新書/980円+税
スウェーデンのベストセラー作家で精神科医によるスマホの危険性を説いた本だ。人類はこれまでの99・9%の時間を狩猟と採集に費やしてきたという。その長い時間をかけて少しずつ進化していったのだが、スマホが誕生してから十数年、いかにこのツールが人々を変えたのかについて警鐘を鳴らす。
完全に現在の世界中の人々は「スマホ中毒」のような状態になっているだろう。第3章のタイトルは「スマホは私たちの最新のドラッグである」となっているが、確かにドラッグ的である。
〈私たちは1日に2600回スマホを触り、平均して10分に一度スマホを手に取っている。起きている間ずっと(中略)スマホがないと、その人の世界は崩壊する。私たちの4割は、一日中スマホがないよりは声が出なくなる方がましだと思っている〉
「スウェーデン人とインターネット」という調査の結果にはこうある。
〈ティーンエイジャーは1日に3~4時間をスマホに費やしている。睡眠、食事、学校や保育園への移動を除けば、残る時間は10~12時間。この時間の3分の1以上、子どもたちはスクリーンを見つめているのだ〉
日本でも電車に乗れば、7人掛けの席全員がスマホを見ていることなどよくある風景だし、カフェにいる友人同士と思われる2人が無言でスマホを見ている光景も普通になった。
本書の重要な点は、医師である著者が現在の「スマホ脳」をヤバい状態だと認識していることである。本書の最後には「デジタル時代のアドバイス」として「自分のスマホ利用時間を知ろう」「毎日1~2時間、スマホをオフに」「あなたがスマホを取り出せば、周りにも伝染する」などと意見している。
各章の1ページ目には、「スマホ脳」にかかわる警句が紹介されているが、中にはアップル創業者・スティーブ・ジョブズ氏の「うちでは、子供たちがデジタル機器を使う時間を制限している。」という言葉もある。
さて、私は「ネットニュース編集者」を名乗りつつもスマホは持っていない。パソコンで仕事はするが、それ以外の時に誰かとつながっていたくもないし、常に追いかけられている状況がイヤなのだ。
時々電話で「先ほどメール送りましたが……」とだけ言われることがある。そんな時「『送りましたが……』の真意は?」と言う。そのうえで「私はスマホ持ってないので見られません。家に戻ったら返事しますので」と言う。スマホを持たぬ人生も案外快適である。 ★★★(選者・中川淳一郎)