「菅義偉の正体」森 功著/小学館新書
「いかに信念のない政治家が多いことか」
菅首相が著者にそう語ったという箇所を読んで私は大笑いしてしまった。自分のことはわからないと言われるが、これはひどすぎる。
菅が「いかに信念のない政治家」であるかは創価学会(公明党)批判から大転換したことでも明らかだろう。
1996年秋の衆議院議員選挙に菅が神奈川2区から立候補した時、相手は創価学会の青年部長をやった新進党(現公明党)の上田晃弘だった。学会は連日1万人前後の全国動員をかけて上田を全面支援した。それに対し、菅も学会の名誉会長、池田大作を“人間の仮面をかぶった狼”とまで罵倒し、自民党執行部が心配するほど激しい学会批判を展開したのである。各所で摩擦も起こった。
しかし、次の2000年の選挙では自民党は公明党と手を組み、菅も学会に協力を求める。一度挨拶に来いと言われ、菅は秘書の渋谷健と一緒に学会の神奈川県本部に出かけた。
「菅さん、あんたこないだの選挙で、池田先生のことを何て言った? あんなに批判しておいて気持ちは変わったのか」
地域のトップにこう詰られ、1時間ほど、菅は言い訳に懸命だった。
「おい渋谷、最初はほんとに怖かったな」と菅はのちに言ったらしいが、この大変身(心変わり)は学会のトップでなくても、追及したいところである。
ウソは菅のお家芸なのだろう。「ウソつき、帰れ」と言われても、この男は何の痛みも感じないに違いない。それが身にしみつき、習い性となっているからだ。菅が池田に投げた“人間の仮面をかぶった狼”という名称は、むしろ、菅にこそふさわしい。菅以前に自民党で学会と太いパイプを持っていたのは野中広務だった。しかし、野中はまだ学会ではなく、公明党と連携していた。ところが菅は「政教分離」など知ったことか、と学会の副会長、佐藤浩とじかに取引している。
菅は竹中平蔵や高橋洋一らの新自由主義者を重用している。私は「総理大臣菅義偉の大罪」(河出書房新社)で、著者と同じくその点を指摘するとともに、2009年に高橋が窃盗容疑で書類送検されたことを糾弾した。それがバレて高橋は東洋大学教授をクビになっている。それを菅は参与にしたのだが、日本学術会議の問題を見ても、自分に逆らわなければドロボーでもいいという菅はまさに「バカな大将、敵より怖い」である。
★★★(選者・佐高信)