「『奇跡』と呼ばれた日本の名作住宅」大川三雄、加藤純著
コロナ禍で、都会を脱出する人が増えているそうだ。移住までは考えずとも「おうち時間」が増え、住環境の見直しをする人も多いのでは。そんな人たちに参考書としてお薦めなのが本書。
戦後、本格的に住宅の建設が始まった1950年代から2010年までの建築史に残る名作住宅を、写真と間取り設計図を添えて解説したビジュアルブック。
戦後、革新的な小住宅を発表して、都市住宅のひな型を提案したのが清家清氏だった。「斎藤助教授の家」(1952年)は、氏の初期の代表作。
延べ床面積18坪のこの住宅は、独立性が確保されているのは建物西端の3畳の寝室だけで、リビングを中心とした広い公共空間で構成されている。フラットな天井、可動式の畳が置かれた床など、今見ても、そのデザインは全く古びていない。
一方、菊竹清訓氏の「スカイハウス」(1958年)は、戦後住宅史の金字塔のひとつに数えられる。
一辺が約10メートルの正方形平面のRC造りの箱が4本の巨大な壁柱によって高く持ち上げられたその住宅は、住宅地に突如出現した小さな神殿のようだ。核家族化というライフスタイルの変化に対応し、新しい家族の在り方を表現する住宅の原型のひとつになったという。
スカイハウスの翌年、戦後のベビーブームを受けて、庭に子供の勉強部屋をつくるという発想から大和ハウス工業の「ミゼットハウス」が発売される。住宅が「請負」ではなく、「商品」となった常識を覆す出来事だった。
以後、現代の家づくりの仕組みそのものを変えようとしている伊礼智氏の「守谷の家」(2010年)まで、年代順に約50棟の住宅を網羅。
名作住宅に住む自分を妄想するのも、家づくりのヒントを学ぶのも、あなた次第。
(エクスナレッジ 1800円+税)