レイシズムに立ち向かう
「レイシズムを考える」清原悠編
「レイシズム」は人種や民族に対する差別のこと。いまや世界中で吹き荒れるレイシズムに立ち向かうには――。
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人種差別というとアメリカの専売特許のように感じている日本人は少なくないだろう。
しかし表れ方が違うだけで日本にも人種差別、民族差別は後を絶たない。それどころか国連の「人種差別撤廃条約」の加盟国でありながら反レイシズム法どころか、ヘイトスピーチを取り締まる法律さえ2016年までなかった日本は、厳しい規制にさらされるヨーロッパの右翼が見ると「レイシズム大国」だ。
本書は若手の社会学者や歴史学者らが「図書新聞」にリレー連載した「レイシズム・スタディーズ」(差別研究)への入門書。
冒頭の「日常をとりまくレイシズム」は、在日朝鮮人3世の金友子が解説する「マイクロアグレッション」の実態と構造。朝鮮名を名乗っただけで「日本語がお上手ですね」と言われ、在日だと明かすと「日本人みたいに見えますね」。言っている側に悪意はないだろうが、言われた側にしてみると「よそ者」として一線引かれた気持ちになるのは避けがたい。こういう「小さな(無意識の)攻撃・侵害」が「マイクロアグレッション」だ。
日本の状況と世界の現状をともに理解するに適している。
(共和国 3300円)
「アンチレイシストであるためには」イブラム・X・ケンディ著 児島修訳
アメリカでベストセラーになった若手歴史学者が説くのは「反(アンチ)レイシズム」。「わたしは差別してない。レイシストではない」と言うのは「中立的」だと言っているのに等しいと著者は語る。積極的にレイシズムに反対と言わないかぎり、レイシズムを容認しているのと変わりがないのだ。
2000年の大統領選でジョージ・W・ブッシュが異常な逆転劇を演じた時に大学1年生だった著者は、自分も「無気力な黒人」に対する偏見と差別にとらわれていたと告白する。キング牧師の時代の論理だけでは立ち向かえなくなった現代のレイシズムへの警鐘だ。
(辰巳出版 2420円)
「欧州の排外主義とナショナリズム」中井遼著
アメリカでトランプが出てくる前からヨーロッパでは排外主義が横行し、差別がむき出しになりつつあったといわれる。その“常識”や通説は正しいのか。本書は若手の政治学者がヨーロッパ各国の社会調査を丹念に読解し、排外主義の実態を明らかにする意欲的な試みだ。
ヨーロッパにおけるナショナリズムや排外主義はEU統合の進展にともなって必然的に発生する現象であり、けっして一時的な病理ではない。ただしこのナショナリズムは昔ながらではなく、国家より小さな地域主義型ナショナリズム、国家をまたぐ主権横断型ナショナリズム、流入する移民の波に対して国民文化を保護しようとする保護主義型ナショナリズムなどに分かれる。
ていねいな実証的議論の価値は高い。
(新泉社 3080円)