オバマ政権8年の総括
「約束の地(上・下)」 バラク・オバマ著 山田文ほか訳
米国史上初の黒人大統領としていまも人気のオバマ元大統領。その功罪がいま明らかに。
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歴代の米大統領の中でも名文家として知られるオバマ氏。本国で話題になったと思ったら邦訳もすぐに出た本書は、上下2巻で合計1000ページを超える大冊だ。
ただし、政治家を志すまでの日々は既に「マイ・ドリーム」が刊行されているから、本書ではその部分はあっさりと数十ページで終わる。
本体は上院議員への出馬を検討するところから。折々に妻や幼い娘たちの横顔を織り交ぜた文章は明らかに自分で書いたもの。ユーモラスに自分をちゃかし、失敗もあけすけに披露しながら上巻の第2部で最初の大統領選に勝利するところまでがたどられる。第2部の終わりで勝利を確定し、政権メンバーを選考するところからが読みどころだ。
特に自分を「夢見がちな理想主義者」と呼びながらも、外交や軍事では「現実主義」でなければと共和党員のゲイツを国防長官に指名するなど、いまの分断では昔話にさえ聞こえる。
政権発足当時のリーマン・ショック対応から最後はビンラディン殺害作戦まで、息もつかせぬ文章力はさすが。「現実主義」とバランスを貫こうとするあまり、民主党の既存勢力と妥協したところに左派を失望させた遠因があったこともうかがわれる。回顧録はまだ完結ではなく、残りは鋭意執筆中という。
(集英社 各2200円)
「僕の大統領は黒人だった(上・下)」タナハシ・コーツ著 池田年穂ほか訳
著者はアメリカでいま最も期待される若手作家と評判。もとはフリーのライターとして論壇雑誌「アトランティック」に取材記事を書いていた。その時期がちょうどオバマ政権の誕生から終わりまでと重なったことから、本書は期せずしてオバマ政権時代を若い黒人の立場から総括したかたちになった。
初めて黒人の大統領が誕生したことへの喜びとその後に深まる社会的な分断へのとまどい。合間にはミシェル・オバマ夫人へのインタビューをはさみ、彼女の堂々たる存在感に感銘を受けながら同じように恵まれた教育と生活を手にできない黒人社会の苦悩を思う。
日本では先に翻訳されたが、本書のあとに書いた小説「世界と僕のあいだに」は、読書好きのオバマが高く評価したことでも知られている。
(慶應義塾大学出版会 各2750円)
「国家にモラルはあるか?」ジョセフ・S・ナイ著 駒村圭吾監修 山中朝晶訳
カーターおよびクリントン米政権で安全保障問題などを担当した民主党系の元高官。いまでは芸術やエンタメなどの「ソフトパワー」が外交に役立つと提唱したハーバード大教授として知られた著者が、ルーズベルトからトランプまで歴代政権の外交政策を比較。その意図や手段と結果の3つの観点で採点するというのが本書だ。
上位はルーズベルトにトルーマン、アイゼンハワー、父ブッシュで民主と共和が同数。下位はジョンソン、ニクソン、ブッシュ子、トランプで共和3人対民主1人という採点だ。
外交通というイメージの強いケネディも、外交で得点を挙げられなかったとされるオバマも本書では中位。要は同盟関係を強固にして戦争を乗り切った指導者に分があるということだ。
(早川書房 3190円)